それは夏のことだ。
彼女は夏の陽射しを透かし通すかのように肌白かった。けれどもその白地にも淡い紅色が浮かび上がって幾分かは健康的に見えた。
毎日を適度な冷房と清潔に保たれた部屋で本を読む彼女の姿は、僕から見れば労働の苦労を知らない貴族のようでとても幸せそうに見える。……なんてことを彼女の前で口にすれば、酌量の余地も無く枕をフルスイングすることは間違いない。いや、そんな彼女に対して誤解を招くような言い方は辞めたほうが良いか。
辞書の角で後頭部を狙い撃ちされないだけマシだ。それは間違いない。
彼女は彫刻で掘り出したような細い指先で女性向け雑誌をこれ見よがしに音を立ててめくっていた。
「来年の流行はなんだろうね。私は誰かさんらしくお子様らしいから、大人びたファッションは流行ってほしくないんだけど」
そう子供みたいに見え透いた意地悪い顔はもう見飽きたし、思わせ振りなセリフも聞き飽きた。
僕はわざとらしい手ぶりを添えて答えた。
「そんなこと、来年になればわかるだろ」
夢見る心。
現実見る体。
矛盾しているようでしていない。
『生きたい』と願っても体は死んでいくし、『死にたい』と体を傷つけても心は浮き上がってくる。
心が先か体が先か。
それでも夢見る心を支えているのは現実を生きている体。だから今は寝る。
──好きです。
何回目の好きかはもうわからない。数えるのは両手で数えるくらいになってから辞めた。
私が好きだと言うたび、あなたは眉を下げて口角を少し上げる。少し湿っぽい、そんなあなたの笑い方が好きだった。
はじめての「好き」を言ったときは胸が高鳴って、脇のあたりが熱くなって、とてもじゃないけど平静を装うことなんてできかった。
──ごめんなさい。
その言葉を初めて聞いたとき、「もう恋なんてしない」って神と自分の心に誓った。その誓いは次の日には破り捨てていたけど。
それ以降、私はあなたに「好き」と言い続けた。あなたは「ごめんなさい」と愚直に向き合ってくれた。
非日常はいつしか日常になって、奇妙な縁になって私たちを結んだ。
けど、いつの日か考えるようになった。
「ごめんなさい」と断るあなたを、今も私は「好き」なんだよね。
じゃあ、あなたが私を受け入れてくれたとき、私はそのあなたを「好き」と言えるのかな。
拝啓
夜はまだまだ冷えしも、柔らかな陽射しに心ほどける日が増えましたね。
そちらはいかがお過ごしですか? 子猫は元気にしていますか?
私の家の中じゃあ子猫がよく窓際でじゃれ合って、そのまま目を閉じてしまうことも少なくありません。
先日、引き取った子猫たちはすくすくと成長をしています。子猫と呼ぶにも時間の問題かもしれません。そちらの子猫たちの顔を見れないのは残念ですが、今はこの子たちの成長を見守りたいと思います。
【追伸】すいません、書き忘れるところでした。あの日、段ボールに捨てられた子猫を共に拾ってくださいましてありがとうございました。
敬具