猫又 朗音

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 それは夏のことだ。

 彼女は夏の陽射しを透かし通すかのように肌白かった。けれどもその白地にも淡い紅色が浮かび上がって幾分かは健康的に見えた。
 毎日を適度な冷房と清潔に保たれた部屋で本を読む彼女の姿は、僕から見れば労働の苦労を知らない貴族のようでとても幸せそうに見える。……なんてことを彼女の前で口にすれば、酌量の余地も無く枕をフルスイングすることは間違いない。いや、そんな彼女に対して誤解を招くような言い方は辞めたほうが良いか。
 辞書の角で後頭部を狙い撃ちされないだけマシだ。それは間違いない。
 彼女は彫刻で掘り出したような細い指先で女性向け雑誌をこれ見よがしに音を立ててめくっていた。
「来年の流行はなんだろうね。私は誰かさんらしくお子様らしいから、大人びたファッションは流行ってほしくないんだけど」
 そう子供みたいに見え透いた意地悪い顔はもう見飽きたし、思わせ振りなセリフも聞き飽きた。
 僕はわざとらしい手ぶりを添えて答えた。
「そんなこと、来年になればわかるだろ」
 
 

 

4/18/2026, 6:32:51 AM