お前が嫌い
花占い 花視点
太陽にぶん殴られてあつたけえ
歌舞伎町のアウトロー詩人、北大路翼の好きな句だ
外で飲み潰れたろくでなしが朝日に起こされた絵が浮かぶ
暴力性と温かさはときに両立する ろくでなしにとって強制的に降り注ぐ太陽の鉄槌は優しさにもなり得るのだ
何をするにも責任を問われる今の時代にはできない優しさを朝日は持っている 言うならば押し付ける優しさだ
尻に火を付けられるかでもしないと動けない種類の人間はいて句の主人公もそうであろう そしてダメだと叱って火を付ける家族も恋人も友人もいないであろう
ろくでもない飲み方をしてぶっ倒れても誰も助けてくれない 起こしてくれない おそらく近寄りがたい風貌なのだろう 服はよれて髭もだらしなく生えている
だけどそんな人間にも太陽は構わず殴り起こしてくれる
ダメダメになったって朝は起きろと叱ってくれる
うっとおしくてもそこには温かみがある
朝日はろくでなしにも乱暴に優しく叱ってくれる
「世界の終わりに君と…」
Z級映画のクライマックス。今は地球が隕石の落下と同時にエイリアンに襲撃され、未曾有の死に至る感染症が拡大し、異常気象によって全海面水位の急上昇と全火山の大噴火と大陸レベルの台風が発生し、AIを搭載したロボットが暴走し、各国が核戦争を始め、神が君臨して地球を滅ぼそうとしているところだ。
世界が終わり過ぎてる。もうなんかむしろ始まってる。ヒロインを抱きしめながら叫ぶ主人公の演技が頭に入ってこない。もうこれ以上情報量を増やさないでくれ。心の中で嘆いていると、中盤に出てきたゾンビとサメと恐竜と悪霊が台風で打ち上げれているのがチラチラと背後に映り込んで私は逆にこの映画を愛することにした。
「ほんとさいやく」
頭でっかちな昔の僕は内心ぷんすかしていた。まず読み方を間違えているクラスメイトの発言。この世の最も悪いことなんて人が正確に分かるわけないのに。だから僕は最悪と表現を避けてきたというのに。昔の僕はそんなことでちっちゃく怒っていた。
今はというと、むしろその発言の軽薄さ以外のものを考えるようになった。「さいやく」。たぶん人から聴こえた音のまま言っているのだろう。それが今の僕には皮肉抜きに面白く感じた。
当たり前だが言葉は辞書的な意味付けをされる前から存在する。それは各々がその場その場でやり取りする為の道具としての言葉だ。そこではとにかく通じることが第一でそれが本質でそれが全てだ。
クラスメイトの間違いはその領域に回帰しているようにも捉えられる。赤ちゃんが言語を獲得する方法と同じで他人の音をとりあえず真似ている。そこで重要なのは音のだいたいの違いを覚えることであって厳密な意味の理解ではない。だからこそ、その領域の言葉は辞書から解放された生の道具のように思えてどこか魅力的だと感じた。
そもそも理念上の究極の悪はない。僕がこだわっていた最も悪いという辞書的な意味、いわゆる文字通りの意味についても善悪の観念を調べるようになってからそう思うようになった。ニヒリズムよろしくそこの意味合いに強くこだわる程の価値が無いと。だからこそもっと自由に意味を持たせていいと。
すごい悪いと思ったから最悪。感情の発露はそれぐらい簡潔でいい。もちろん学ぶことは大切で定義を把握することにも価値はある。だけどそれ以上に他人そして自分自身へのコミュニケーションを成り立たせることに意義を感じる。それさえできれば充分だ。頭でっかちな僕は自分への戒めとしてもそう思うようになった。
…ここまで書いておいてクラスメイトが言っていたのがほんとは最悪じゃなくて災厄だったらどうしようか。もしそうだったらそれはさいやくだ。
誰にも言えない秘密はその内容よりも
言えない理由の方が気になるんです
秘密は内容よりも理由の方が
その人が表れている気がするんです
あなたが秘密にする理由はなんですか