カラオケ映像で流れるチープな恋物語は
きっと人類をバカにした宇宙人が作っている
だいたい街中以外には海岸か芝の広い公園がロケーション
運命的な出逢いを経て何かしらの共同作業の後
自宅で一人相手を想うパートもマストで入る
花や果物あとは手紙も登場したりする
なぜか連絡手段として公衆電話も活用する
ファションセンスは永遠に平成初期で止まっている
最初から失恋スタートパターンもある
その場合の男女は夜の都会を背にシビアな表情をしている
男は黒のタイトなシャツを着て目線は絶対カメラから外す
ツッコミどころが多すぎて正直歌わずに見ていたい
恋愛というか恋愛ドラマあるあるを意識したかのような
実際の恋愛に抽象に抽象を重ねた映像の味わいが好きだ
あれが映しているのはもはや概念としての恋愛だ
超うっすいイデアのような恋物語の垂れ流し
簡単に言うと人間の恋愛なんてこんなもんでしょという
結果としてバカにしているような映像がたまらない
まるで人類を外側から観測しているような
カラオケ映像の監督はきっと地球外生命体だ
「この時間だと世界に私たちしかいないみたいだね。」
真夜中の路上。ロマンス溢れる瞳でこちらを見つめながら彼女が言ったその"私たち"の中に側にある公園で泥酔し倒れている若いサラリーマンが含まれているのか考えていた。
付き合い初めて2ヶ月。普段大人しい彼女は二人きりになると大胆になることを僕は知っている。そして一度そのモードになると手がつけられなくなることも知っている。
恐らくではなく確実に彼女は今僕以外の他人の存在を認識していない。身体の距離が近くなっていっていることがその証拠だ。ときめきがサラリーマンを抹消している。
彼女に恥をかかせないためにサラリーマンのことを伏せてそれとなく場所を移動したいがモードに入っている彼女の雰囲気がそうはさせてくれない。
いっそ人がいることを直接伝えるべきか。しかしそれも結局彼女に恥をかかせてしまうには変わりないだろう。何より彼女の作るロマンスがその選択肢も遠ざけていく。
あれこれ思考を巡らせていく内に顔と顔が近くなり次第に何も考えられなくなっていた。そうだもう他のことはどうでもいい。このまま彼女を受けいればいい。それだけだ。
意識の焦点が目の前のことに極限まで合わさったとき。
近くでコール音がほんの数秒間だけ鳴った。
「もしもし。はい、はい。本日はご迷惑おかけしてすみません。はい、あの後無事に乗り継ぎしまして今は自宅にいます。すみません、ご心配ありがとうございます。はい明日の出勤はもちろん問題ありません。はい、今後お酒は控えます。社会人としての自覚が…」
サラリーマンが突然蘇生し嘘をついている。そしてその通話が終わった直後におそらくスマホで現在の時間を確認したのだろう。何かを悟ったような表情しその場にまた寝倒れた。
ほんの一瞬の出来事にロマンスも息の根を引き取り僕も彼女も普段以上に冷静になった。
「やっぱりもう時間遅いし急いで帰ろうか。」
彼女はこくりと小さく首を縦に振りお互いそれ以上は何も言わず真っ直ぐ帰路についていった。
世界に誰もいないかのように虫の音だけが聴こえる。
愛があれば何でもできる
と嘘でも掲げて無理をするのが愛の概念なのかもね
かつて宗教が教義をその概念を活用して説明したように通常から逸脱した行為の根拠となるものが愛なんだと思う
あとお題の何でもという誇張表現が言葉に無理をさせてるような形態でまるでそれが愛の特徴を示しているみたい
世界一好きとか 永遠に誓うとか 何杯でも食べられるとか
誇張表現は愛
選んだという感覚が後悔を引き連れてくる
今日の空模様自体に悔やむ人がいないように
人は自身が因果関係の外にいることには後悔はない
自由意志を持ち自ら選択し因果の内にいると
そう信じているときに初めて後悔が現れる
しかしスピノザが言うように人は結果しか知り得ず
原因は捉えきれないとすればどうだろうか
今こうすることを選んだという自分の意志も
そうさせる捉えようのない原因に従っていると
この決定論は因果の内に自身を置きながら
その繋がりを透明にすることで自由意志を否定する
自由意志を前提とした責任社会においてこの思想は
あまりにも無責任極まりない不合理なものだ
だけど自責や後悔に押しつぶされそうなときには
この不自由な思想が考えを開放する術になると思う
肯定と否定を使い分けて自由意志を自由に信じる
一貫性よりもその曖昧な態度こそが人の強度であると思う
スピノザが本当にそんな思想であるかの責任は取りません
DG01
友人曰くどうやらそれがここの看板メニューらしい
とりあえずで注文された初めてのミラノ風に身をまかせる
外食をほとんどしない家庭で育った自分にとっては
非常にリーズナブルな未知との遭遇で胸が高鳴る
5分程でテーブル上にそれは現れた
確かにこれはまごうことなきミラノ風だ
本家ミラノをまったく知らないがそんな気がする
一旦持った箸をスプーンに握り変え食べ始める
円盤上の冷めきった溶岩のようなものを掬って口に運ぶ
すると口の中にミラノの香ばしい風が吹きすさんだ
そうかこれが これこそがミラノの風なのか
米という日本の大地の上にイタリアの旋風が舞う
高鳴っていた胸が風に押し出されさらに上空へ浮かんだ
もうこの風を知らなかった日常の生活には戻れない
さよなら今までの日々よ 3枚の銀貨と共に散らん
日伊同盟の奇跡に圧倒されていると友人に笑われた
どうやら食べる度にいちいち目を閉じていたらしい
その指摘で一気に意識がすっと地上に引き戻された