理想郷であるイデアは人の欲望の形をしていると思う
現実を説明し尽くしたいという人の欲望がイデアを創った
そして現実の否定である非現実に真理があるとした
人の欲望の原理として否定性は常に潜んでいる
望むということは現状のままではいられないことを指す
そのように欲望の裏返しとして現実の否定性がある
では現実を肯定する為の完全なる理論はどこにあるのか?
そのような欲望が無自覚にイデアを創り出していった
当時は心底どうでもよかった昔の流行を目にすると気分が上向きになる ただ あったな というだけの懐かしさで
ただのその流行がある時代の文化社会を受動的な姿勢で体験してきただけでもその感情が芽生えてくる
通り過ぎただけのものにわずかに親しみを感じる
むしろその時代の最中よりも通り過ぎた方が近さを感じる
目にした何かに対してどうでもいいと無関係を感じたとき
それは既に無ではなく遠さを持った関係を結んでいる
そして後に知りもしなかった過去の出来事と比べたとき
その無関係という関係性に相対的な近さを感じる
無関係性にでさえ遠ざかる時が心を近づけていく
時間的距離に反比例するように心的距離が縮まる
時計の針が示さないものが左回りに渦巻いていく
懐かしさは反時計回りの力を持っている
ストーリーとは別のもう一つの物語の英訳
ナラティブ 人はストーリーではなくその中にいる
ナラティブには語り手の恣意的切断が常に含まれる
有限である人間は認識の段階で恣意性が働く
超越者の持つ究極の客観性に対する語り手の主観
それを通して保存される記憶にはさらなる恣意性が働く
ナラティブには何重にもそんな編集が行われている
有限である存在が故にありのままの現実を直観はできない
夜は優しい
毎日世界を一色に近づける
暗がりの一元論
夜は教えてくれる
世界に差異を生んでるのは光だと
その光の中で見た何かに怖くなった今日
夜ではそんな何かも私と同じ色になっていく
瞼の裏と世界の差異がなくなっていく
私の中の世界と世界が重なっていく
わずかに残る感覚だけの世界に私がいる
世界にいるのは私だけなのではないか
そんなふうに独我論が私を包み込んでいく
暗がりの中でみた独りの世界が怖くなってきた
自分以外の何かの存在を信じたくなった
私以外の何か…何か…誰か…
朝は優しい
毎日夜に終わりを告げる
多元な世界へ私を連れ出す
紅茶に浸した貝殻型のマドレーヌを口にした瞬間の香りでとある小説を思い出した フランスの長い長い小説
たしかこうやって匂いと記憶が結び付くことの名称の由来にもなってる小説家の作品 かつて読んだことがある小説
こうして今まで忘れていた昔の記憶を徐々に思い出して過去を辿っていく内容だったはず あの小説の名前は…
こんなふうにはっきりとは思い出せないものは単語を並べて調べればだいたいわかる 「匂い 記憶」で解決する
そんな今の時代でもどこにも載せることができない私個人の体験の記憶とそれにまつわる匂いに思いを巡らせる
幼少期のおぼろげな記憶 あの頃のあの匂い
あの場所の雰囲気という感覚の質 クオリア
記憶という量的還元不可能な質が私に輪郭を与えている
今感じているこの香りと記憶がそれを思い出させる
思い出せないだけの記憶が私にはあといくつあるのだろう
それを思い出させる何かはどこにあるのだろう
軽食を済ませ外へ出た私の五感は研ぎ澄まされていた
失われた何かを求めて