小音葉

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3/24/2025, 11:00:47 AM

甘美な毒を撒く悪の花
あれは間違いなく世界の敵なのだろう
鉢に囚われ愛でられることを忌み嫌った花は
けれど誰よりも囚われていた
慈雨を憎み、風に殴り掛かった猛き背は
幾星霜を越えてなおこの瞼に焼き付いて
蕩ける愛に偽りはなく、狂った秤に高笑い
恠恠奇奇をも引き連れた
世界の中の花ではなく、花こそが世界なのだと
砕かれ潰れた残骸へ、せめてお前の望む雨を降らそう

過ぎた炎は我が身をも燃やす
構わないさ
壊れた車輪と剥き出しの白
首が見つからないのだと、太陽が嘆く
吐き出す宝に価値はなく
差し出す愛に報いはない
あんな空虚が終わるなら
誓いも誇りも焼き尽くそう
地獄を呑み、骨になるまで歩いてやろう
閃光、滲む光に虹を見た

幾星霜、聞き手のいない神話を歌いながら
有り得ざる再会、ひとときの夢を
躍動する一矢となれる時を待ち侘びる

焦土の墓から、蕾が一つ
祝福無くともやがて咲く

(もう二度と)

3/23/2025, 11:28:05 AM

半開きのカーテンから覗き見る鈍色の空
じきに雨が降り出すだろう
君はまだ帰らない
並んだ傘が手持ち無沙汰に佇んでいる
割れたグラスは昨日の名残り
突き刺さった涙が抜けないまま、僕はまた待ちぼうけ

素直な言葉だけが喉に詰まって
余計な言葉は空気より軽い
容易く人を殺せる不可視の刃
傷付けるつもりなんてなかったんだ
薄暗い部屋で呟いても、もう遅くて
淀んだ心が降り止まない
君はまだ帰らない、もう帰らないかもしれない
考え出したら傷口がじくじくと痛んで
結局僕は、いつかの春先、君の笑顔まで帰ってくる

やがて雨は降り出した
窓を打つ音、片足に靴を引っ掛けた僕
勢いのあまり傘は犠牲になったけれど
目を皿にした君
右腕に引っ掛けたストールは水を吸って
四角い箱を健気に守っていた
中身は間違いなく、そう、甘い甘いロールケーキ
今回だけなんて言いながらフォークを差し出す
君の笑顔を迎えに行こう
重なる言葉、ごめんなさいから今日が始まる

(雲り)

3/22/2025, 11:46:39 AM

色褪せた視界に青が横切る
手放した故郷を、あるいは揺るがぬ背を思い出す
迷路のような路地の裏、細道の先
忘れ去られた踊り場で
馬鹿みたいにくるくる回った
まるで不出来な玩具
埃を被って見向きもされない
子どものような夢を語った無秩序の群れ

あと一歩、届かなかった
壊れたビデオのように記憶が回る
繰り返し辿る、取り零した栄光の欠片

沸騰した血が溢れ出す
埋まらない隙間を埋めようと足掻く雑音
少し静かにしてくれないか
よく聞こえないんだ、波の音が、彼等の声が
今にも青が墜落してきそうだ
ああ、ずっと側にいてくれたのだな
ありったけの愛を込め、小さな手を振り払った

掴めない手を伸ばす
歩けない足で踏み出す
残すものはない
いざ
天使の待つ壇上に背を向け、地獄の門を潜ろうか

(bye bye...)

3/20/2025, 11:01:15 AM

満月を望み、そして恐れた
誰にも見せまいと閉じ籠った暗い夜に
雲間を切り裂いたエンジェルラダー
朝を連れてきたお前は、ただ微笑んで駆けていく
張り裂けるほど叫んでも、遠い背は止まらない
この声が聞こえないのか
聞こえるはずもないか
焦がれた首はこの腕の中、転がっていたのだから

見ないでくれ、微笑まないで
私を信じないでほしい
明けし向日葵はひたむきに、そして強く揺らがず
扉をこじ開けこの手を引いた
思い知った、それはもう焦げるほど焼かれた
花は太陽だけでなく月をも見つめるのだと

夜を暴かれるのが恐ろしかった
月が欠けるのを認めたくなかった
この恥を受け入れ、私は立つ

おはよう、調子はどうか
言葉を交わせば、追い抜く橙のウィンクが見えた
あの日のように微笑んだお前へ
宣戦布告を贈ろうか
これは新たな戦い、そして新たな私の第一歩
二人きり火花を散らせば、やがて空は晴れるだろう
指先に灯る熱を分け合うのも悪くない
空を映す白銀に、指を通して問い掛けてみる

(手を繋いで)

3/19/2025, 11:06:31 AM

肌を刺す砂塵
負けず劣らず星屑は煌めく
拡散する光が私を惑わせる
正しさ、過ち、救いと咎
語る口が多過ぎて、何も聞き取れなくて

歪な器から溢れていく
穴だらけで鉄臭い
汚れた手を潜り抜けて、星の欠片が針となる
罪を継いだ子どもは、命辛々
茫漠たる旅路を往く
求めたのはひとつだけ
背負う覚悟は決めていた

愛を与えられなかった者が
愛を与えることが出来るだろうか
赦されなくても、赦すことは出来るか
応える声はいずれ内から溢れるだろう

夜が更けて
ただ地平線の彼方に、在りし日の幻影を見た

(どこ?)

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