在りし日の君を覚えている
穿つような雨の中、振り上げた拳を
肩を組んで笑い合った日々、
澄んだ瞳で囁く愛、
全て裏切る紫煙の味を、知っている
こんな日が来なければ良いと願っていた
膠灰に褪せた色が、いつか消えても
斜陽を超えて、嘘だと笑う君を待っていた
瓦礫の下から届けよう
墓無き君へ捧ぐ七色、記憶の大樹を焼いた劫火
今度は遮るもののない世界で、漣を聴こう
(君と見た虹)
例えばこれは最後の瞬き
次の呼吸で点火して
この身が燃えて落ちるとして
流星のように心を裂いて
ひとすじ、傷を残せるのなら
悪くないね、とあなたは笑う
雲のドレスを渦巻いて
銀の瞳であなたは踊る
五線譜を跨いだ足跡は
煙のように、影も残さず
私の願いは叶わない
星になどならなくて良かったのに
身を焼く痛みで帰ってほしかったのに
あなたは地で生まれ、這って育った
神になどならない
神になどならない
私を見て、立ち止まれ
天を嘲り銀を手に取る
(夜空を駆ける)
私は鏡
望まれるまま、笑いましょう、歌いましょう
崖端の彼女を抱き締めて
魚になった彼の為に祈りましょう
私は光、願いの形
救いましょう、施しましょう
賛美の言葉も贖いも、瞼を伝い等しく積もる
妬み嫉みは蜜の味
踏まれた影に口付けを
誰に愛されても
私は独り
破片の刺さる肉は尽き
焦げた臓腑は蠅のよう
私のことを、知っている?
(ひそかな想い)
甘い雫も枯れる頃
踵を鳴らして飛び出した
地図もコンパスも持たないで
鈴のように私を奏でる
昨日はあの人、今日はあなた
行き交う、出会う、知らない誰かが私の導
人じゃあなくったって構わない
明日の色はまだ知らない
夢見る季節が終わっても、嵐のように私は鳴るわ
辛いモノも嫌いじゃないの
風のまにまに私が響く
花舞う都、さざめく街よ
あなたの名前を、教えて頂戴
(あなたは誰)
あなたが私を愛した時
私はあなたを憎んだ
あなたが私を守った時
私はただ崩れる背を見送った
あなたが私を求めた時
私はあなたを忘れ白い海を飲んだ
否、否、否
幾星霜、時が流れようとも
繰り返し言葉を、刃を、熱を交わすのだろう
拝啓、彼方で私を待つあなた
星に臨む蕚から
この声が届いているのなら
どうか答を
もう一度、燃ゆる季節を
(手紙の行方)