秋風が立ち、あなたはこの部屋を出ていった。
浮気もたくさんされたし、構ってくれないことも多くて私はあなたに完全に愛想が尽きたと思っていた。
そうだと思っていたのにあなたのいなくなった部屋に
一人残された私は毎日泣いている。
窓から差し込む月明かりで病室のベッドに横たわる幼馴染みの眠る顔がはっきりと目に映る。
もう何回この病室に訪れただろうか。
最初に訪れたときはあんなに暑かったのに今ではもうすっかり冷え込んでいる。
幼馴染みが入院してからほとんど毎日訪れているが幼馴染みはいつも目を閉じて眠っている。
朝に行っても昼に行っても夜に行ってもいつも表情を変えずにただただ眠っている。
でも今日はいつもと違うこと一つだけある。
それは幼馴染みが呼吸をしてないことだ。
いつもなら微かに呼吸をする音が聞こえるが
今日は全く聞こえなかった。
すぐに看護師の人に伝えたがもうそのときには
幼馴染みはもうこの世からいなくなっていた。
幼馴染みが退院したら告白してたくさんデートして
プロポーズするつもりだったのに。
もしかしたら幼馴染みが入院する前に告白していたら未来は今とは違ったのかもしれない。
でも俺にはその勇気がなかった。
結果告白も出来ずに死別した。
俺にとってこの世界はもう生きる価値もない。
みなさんまたいつか会いましょう。
俺は今から幼馴染みのいる世界に行ってきます。
みなさんは後悔のないように生きてください。
毎日世界では約160,000の人が死んでいる。
寿命、病気、事故。
死因は様々だろうが毎日たくさんの命がこの世界から
消えてゆく。
もちろん私もあなたも例外ではない。
明日交通事故に遭って死ぬかもしれない。
もうすぐ地震が起きて瓦礫に潰されて死ぬかもしれない。
食事中に食べ物が喉に詰まって死ぬかもしれない。
私たちはたくさんのリスクを背負って生きている。
言い換えるならスリルがある人生を私たちは過ごしている。
明日は私がこの世界から消えているかもしれないしあなたが消えているかもしれない。
人生嫌なこともたくさんあるだろう。
生きたくないと思うときもあるかもしれない。
でも明日も生きている保証なんかないんだから足掻けるだけ足掻いて死ぬのも悪くないだろう。
どうせ100年後には死んでいるんだし。
私は生まれつき翼が生えていた。
ただみんなの想像する翼とはちょっと違うかもしれない。
私の翼は右側にだけ生えている。翼は自分の思ったままに動かせるが、右側しか生えていないため空を飛ぶことはできなかった。そんな翼でも私は私の翼のことが誇らしかった。
他の人とは違って特別という感じがして嬉しかった。
でも今はそんな翼のことが嫌いだ。
妹が産まれてから私は自分の翼が嫌いになった。
なぜなら私の妹は右側にも左側にも翼が生えていたからだ。
私の翼より少し小さいが空を飛ぶには十分な翼が生えていた。妹が10歳になり、空を飛べるようになってからはたくさんの人が妹の翼を褒めていた。
だが私の翼はそれから逆に虐げられてきた。
何でなの?妹が産まれる前まではみんなあんなたくさん褒めてくれてたのに。私より優れた人が出てきたらその人にしか興味がなくなるの?妹の翼は私の翼よりも貧相なのに?
なんで?なんで??なんで???なんでなの????
空を飛べるからすごいの?
じゃあ私も飛んでやるよ。
そんなことを思い返しながら私はただただ地面に向かって進んでいく。こうなることははじめからわかってた。でも私でも出来るんだって皆のことを見返したかった。
あぁもうそろそろ地面にぶつかりそうだ。
次産まれるときは絶対今よりも立派な翼を両側に......
私の意識はそこで途絶えた。
眼下には淡い金色に輝くススキの穂が広がっている。
空を仰げば雲一つない空に満月が映えている。
だんだんと寒くなる風に吹かれながら今年も秋の終わりを
感じ始める。