チャレンジ11(だから、ひとりでいたい)
あなたが優しすぎて、僕は苦しい。期待に応えられないから、しばらく一人でいたい。僕が成長するまで、時間をください。必ず、あなたを迎えに行くから。
若い時、俺がこんなことを言ったために、長い間、彼女からの連絡が途絶えた。当たり前だ。しかし、そのあと色々あって、彼女と俺は今、一緒にいる。縁結びの神様には頭が上がらない。
家内は頭痛持ちだ。偏頭痛の症状が出た時は、光や音、臭いが苦手になる。部屋が明るすぎると言う。明かりを消した部屋で、テレビも消して、痛みに耐えている。話すのも大儀らしい。
「あなた、今日の晩酌は飲まないで。アルコールの臭い、わたし苦手なの。痛いのが治るまで、独りにさせて」
暗い部屋に横たわる妻。結婚生活って、こういうものだっけ?
一人になりたい。というか、強制的に独りの時間を作ることになった。お互いの距離感は、これくらいがちょうどいい。妻は1階のリビングで、俺は2階で、夕方のひとときを過ごす。独りで飲む焼酎も、悪くない。
チャレンジ10 (澄んだ瞳)
病院の待合室でのこと。
ふと気づくと、2歳くらいの男の子が私を見ている。澄んだ瞳に青空が映っている。楽しませるようなことを、何か言いたい。悔しいが、何も浮かばない。いや、正直に言うと、「カラスの勝手でしょ」というのを思い出したが、教育上まずいかと思ってやめた。
坊やを見る。澄んだ瞳に、心が清々しくなる。大人の悩みを吹きとばしてくれる涼やかさだ。瞳の中の青空は明るい。
坊や、ありがとな。
私は声に出して言った。慌てて駆けつけてきた坊やの母親が、不思議そうな顔をした。
チャレンジ9(嵐が来ようと)
雨が降ろうと嵐がこようと家族を守る。私の母は、そういう気性だ。家族の様々なトラブルを、たぐいまれな決断力で解決してきた。一度決めたら挫けない。快活で行動的、かりに偉い人物を前にしたとしても、臆せずに意見を言う。
あたし、目の前の相手が社長だろうが天皇陛下だろうが、全然動じないわ。
人生は自分で決めるものよ。最後の最後には、誰も助けてくれない。だから、自分で決める。納得できるし、そのほうが面白いじゃない?
あまりの豪快さに、台風でさえ進路を変えてしまいそうな母。悩みを相談すると、明るい気持ちになる解決策を示してくれる。
気がつけば、そんな母に頼りすぎていた。
おふくろ、俺のピンチを救ってくれてありがとう。一緒に泣いてくれてありがとう。
母は、いつ泣いているのだろう。いつ素顔の自分を出して、くつろげるのだろう。おふくろのために、私は何ができるだろう。こんなことを考えて、うじうじする。不肖の息子である。
チャレンジ8(お祭り)
お祭りといえば、花火。盆踊り、浴衣。夜店の焼きそば。金魚すくい。
俺は不器用で、金魚すくいの「ホイ」を破ってばかり。従弟に笑われた。夜店のお兄さんは同情したのか、金魚を1匹渡してくれた。俺が泣きながら、もう1回、もう1回、と繰り返したから。諦めの悪い性格だ。
お祭りの日というと、祖父母の家での夕飯と、いまは亡き祖母を思い出す。
扇風機の風。父や叔父が飲んでいた瓶ビール。巨人戦のナイター中継。後楽園球場の歓声がテレビから聞こえる。昭和の夏。
お祭りの記憶から、夏休みの思い出になってしまった。すみません。夏祭りの楽しみは、昭和の頃も、現在も変わらないはずだ。
お祭りのソース焼きそば、美味しかった。また食べに行きたい。
チャレンジ7 (神様が舞い降りてきて、こう言った)
神様が来て、こう言った。
お前のぐうたらな暮らしぶりは、実にけしからん。朝寝はする、ジャンクフードに目がない。仕事の愚痴を言う。ゴロゴロして覇気がない。毎日寝てばかりで、脳のシワが伸びるかと思うほどだ。もう少し、シャキッとせんか。
じつに耳の痛いお言葉です。ご指摘、いちいち的確です。痛み入ります。
しかしですね、神様。あなたは、天国の清浄な空気に、うんざりすることはありませんか。たまには人間の未熟さを眺めて、刺激を得ようとお考えになったのでは? そうでしょう。
そうでなければ、しがない中年男の部屋に舞い降りていらっしゃるはずがない。
もっと高潔な生き方をしている人のところを訪れて、美しい心がけをほめて、励ましてあげたらいかがでしょう。
ほら、頭から湯気が出てます、そんなにお怒りになると、寿命が縮みます。
神様に寿命はない? 失礼しました。それでも、お体を大切になさいませ。神様は、みんなの願いを聞き届けるお役目なのですから。