強烈な寒波が背中をグイグイ押して左右確認をする間もなく前進させられる。車のドアは猛烈な勢いで持っていかれそうになり、隣の車にぶつけないように必死だった。「なんだこの風は?」あまりに強すぎる。温かい飲み物が飲みたくなったが薬を飲む時間にはまだ早い。まだ予定は詰まっているんだ。思考が混乱して正常な判断が狂ったまま、予定していた服を買う。一週間前なら2,000円ほど安く買えたのだが、当時は不要だと判断していた。仕事用の腕時計が欲しいのだけど、もっと安くて「これだっ!」というものは売っていなかった。その代わり、たまたま目についた大きめの電卓を買っていた。軍手をしていても押しやすい。ボタンもゴムでなく反発力がある。自宅に戻れば男衆が昼飯を待っている。相変わらず自由に生きてんな。グッタリとした身体を少し休め、明日の為の自家製ヨーグルトを作る。なんだかんだ言いつつも、やる事がある内は生きている実感がする。完全な自由時間が訪れると胸の圧迫感が停車駅から乗り込んでくる。途中下車はない。ほうれん草のベーコン炒めを一口食べるだけで、それ以上は受けつけない。昨日は切り分けたブロッコリー1個の1/3だけだった。何でだろうね。最近は前より食べれないや。そんな時は無理に食べない。自分を責めない。もしお腹が空いたら飴とかアイスで調整しよう。今日を生き延びることに考えをシフトする。科学者のように試行錯誤しながら生活する。寒さが身に染みて、温かいものが食べたいと思いつつ、固形物は受けつけないことが多いからアイスを食べる。温かい飲み物はあまり飲まない。
題『寒さが身に染みて』
黄金時代の航海が終わり、汽笛が新大陸に上陸したことを知らせる。廃課金の揺籠からアクティブな獣の巣窟に突如放り込まれる。
"遊びの時間は終わりだ。今までの人生で培ってきたスキルで生き延びてみせろ"
学校の先生、クラスメイト、そして親でさえ現実の血生臭い姿を見せてくれなかった。初見殺しのオンパレード。β版の既存プレイヤーでもない限り回避不可能。攻略本もなく協力的なNPCもいない。そして死亡する度に強くなる敵。
この世界は理不尽すぎる不思議なダンジョンだ。
運の要素が強すぎる。
そして時は戻らない。
題『20歳』
齧りかけのメロンパンが空に浮かんでいる。ボクは菓子パンを3回に分けて食べるけど、黄金色に輝くそれは瓜二つだった。明るく振る舞う三日月は化粧直しに出かけた満月の代役を見事に演じている。誰も欠けているとは思わない。彫刻刀で削ぎ落としたクレセントは人生の中盤になって完成した大器晩成の器のようで欠けているから美しい。残りは明日に食べるとしよう
題『三日月』
色とりどりのピ◯ミンがプリントされたトートバッグの底にセピア色の染みが滲んでいた。何年も前に閉まったままになっていた仕事用のバッグ。パッチワーク柄の弁当袋に母が色々なおかずを詰めてくれていたのが懐かしい。でも今のボクは米を食べることが殆どないから苦しくて悲しいな。色とりどりのお弁当を見ると脳がウッってなって拒絶反応を起こしちゃう。カラフルな世界に戻りたいなと思うけど、戻れないなら今の自分を受け入れるしかない。セピア色の世界で新しい楽しみを探して生きてる。
題『色とりどり』
随分と高い位置にある入札口に千円を挿れる。丸い座椅子をクルクルと回して座高を調整する。凍える風を遮るのは足元まで届いていない目隠し用の薄いカーテンだけだ。これだから冬は嫌なんだ。暖かなコートを脱ぎ、真正面を見つめる。機械音声の指示に従い3.2.1.パシャ。出来上がった証明写真は運転免許証よりは補正をかけてくれているような出来栄えだった。スティック糊は放置しすぎて消しゴムと変わらない 。
"やるべき事が全部終わったら温泉に行きたいな"
そう思って車の後部座席には温泉セットが置いてある。まあ、結局いけなかったけど。
題『雪』
[お題と関係ないメモ]
雪が積雪になると「ここ、テストに出るからな」と言わんばかりに注意事項が増える。
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・サイドブレーキは坂道でないなら使用しない
(凍りついて壊れてしまう)
・ワイパーは上げておく
(窓に張りつくから)
・車に積み上げられた雪は落としておく
(ブレーキをかけた際に全面の窓ガラスを塞ぐように落ちてくるから)
・ブレーキは細かく踏む
(雪では急に止まれない)
・タイヤが雪に埋まったらアクセルを蒸さない
(余計出られなくなる)
・雪おろし用のスコップを常備しておく
・ライトは早めに点灯する
・歩く際は歩幅を狭くする
・雪かきは底まで綺麗にしない
(地面が凍るから)
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