Let’s snow と書かれた雪だるまの木板がサンセベリアにぶら下がっている。玄関には有名なネズミのキャラクターがサンタ服姿で飾られていた。杉の木を模したガラスの置物はキラキラと七色に変化している。
冬がきてしまった。雪が積もると何もかもが億劫になる。体温維持にエネルギーの大半を消費する。もはや動くのが嫌になってしまった。外出する事もないため散文的な文章しか思いつかない。このまま雪と一緒に溶けてしまいたい。
題『スノー』
"オムライスが食べたい"と言われてオムレツを作った。お気に入りのチャンネルの料理動画で作っていたのがチーズオムレツだったから。フライパンの取手が取れないタイプだった為オーブンに入らず、見た目はパンケーキのようだった。ケチャップで推しキャラのサインを書いてあげた。オムレツってこんなのだっけ?と言われつつ「予想以上のものが出てきた」と味は好評だった。
料理の先には家族の笑顔があり、夜空を越えたような達成感があった。そろそろ「趣味は料理です」と胸を張って言えるようになってきた。
題『夜空を越えて』
炬燵に衣服を入れて温めておくような、チチチチっぼっという音をたてて稼働する石油ストーブにお尻を向けて待ち侘びるような。かつて少年時代を過ごした思い出の家の記憶。階段が急勾配で手摺りもなかったから何度も転げ落ちた。祖母の部屋には団子虫や蛙や蝙蝠などを見かけたし、台所の近くからはチューチュー鳴く鼠の存在を感じた。自室はタバコのヤニで黄ばんでおり、兄の部屋より2畳ほど狭かった。それでも家族としてバランスの取れた素敵な生活だった。今の家は誰からも羨まれる。だけど、"前の家に戻りたい…あの頃に戻りたい"と叶わない過去に縋りつく。家族と過ごす時間は前よりずっと多いはずなのに、"ぬくもりの記憶"が存在しない。悲嘆的な感情の牢獄で、いつの間にか誰かに"ぬくもりの記憶"を与えてあげるような年齢になっていた。
題『ぬくもりの記憶』
凍える指先は爪に縦線が入りパックリ割れた皮膚は黄ばんでいた。ビタミン不足な末端組織に栄養が行き渡っておらず、指紋認証も正常に作用しない。五臓六腑への支援が最優先であり、凍える指先は常に酷使されている。
いつだって切り捨てられるのは端っこからだ。
題『凍える指先』
食事はいつも16時40分、苦しみながら僅かな食事を必死に食べるが、食べ過ぎてしまったのではないかと明らかに矛盾する想いを同時に持つ。過去の食べれていた頃の記憶と現在の食べれない記憶が混ざり合い、二つの矛盾した苦しみが重なりあう。誰にも理解されない。解放される為には布団に横になるしかないと、それしか考えられない。そうした苦しみの中に連続した舌打ちの音が響く。癖なのか歯に引っかかっているのか知らないが、その音に駆り立てられるように歯磨きを済ませ、これ以上は耐えられないと午後6時に布団へ潜る。自室のロフトへの梯子を何度も叩いて不満を露わにする。
明日になったら雪原の先へ行かなければ。ガソリンを詰めて図書館へと本を返却しなければならない。想いばかりで身体は運転するには危険だとアラームを発している。こんな生活がいつまで続くのか?雪原は山となっており終わりが見えない。
題『雪原の先へ』