寝室の壁に取り付けられたセンサーが人の動きに反応して優しい暖色光を灯した。どこからか紛れ込んだ虫の死骸が月模様のように見える。その灯りを頼りにリビングへ向かい、紅茶を淹れる。椅子に座って一口飲む。優しい香りとグラニュー糖の自然な甘さが、倍速動画のような人生に思考する余裕を与えてくれた。
精神が本来の穏やかさを取り戻し、「何のために生きるのだろうか」と自問自答する。月光は何も言わず、微かな微笑みを浮かべて見守っていた。
題『moonlight』
ごめんね。許すことはできないんだ。声も姿も何もかも。私の食器に重ねて置くことさえ。もはや修復不可能な関係性。貴方といると腐った桃の箱の中にいるみたいに自分の人間性が腐っていく。今日だけでも許せる関係なら、まだ間に合ったのにね。
題『今日だけ許して』
誰かにすぐに助けを求められるのは美点だ。出来ないことは素直に認めて、周りの人を価値ある人だと思っているから。でも世の中、たった一度の失敗で「こいつ使えないな」と見切りをつける人が多い。
「一度目は許す、二度目もまだいい、三度目はふざけるなよ」
そんなふうに言う人に「分かりました」意外の発言は出来ないし、質問もできる訳ないんだよね。
だから何度でも失敗するんだ。
追申
「それってパワハラですよ」と言える度胸の人が羨ましい
題『誰か』
12月に東京へ行く。「一緒にコンサートに行かない?」と誘われたからだ。今から必要なものをリストアップして防災グッズの用意をしないと。楽しみよりも不安が強く、テレビの中の遠い存在でしかなかった都会が現実味を帯びている。モヤのかかった景色の向こう側から遠い足音が近づいてくる。ピッチは早く、今にも吐息が聞こえてきそうだ。
題『遠い足音』
あっという間の一年だったなと感慨になる。特別なイベントがある訳でもないため時間が一気に駆け抜けていく。10月の開店と同時に柿が店頭に並び始める。秋が旬の食材は師走の季節のように慌ただしい。干柿とクリームチーズの食べ合わせが好みのため白ワインと一緒に味わいたい。
題『秋の訪れ』