カフェオレ用の焙煎豆をブラックで飲むのが好きなんだ。16.3gの豆をミルで粗挽きする。コーヒーフィルターには30秒間隔で45mlずつ中央から外へ向かって注いでいく。これを5回繰り返した。朝にごま油の香りがすると文句を言われるが、コーヒーの香りは文句を言われないから有難い。一口飲むがとても苦い。だが市販品では薄すぎる。コーヒーが冷めないうちに…というのは無理な話だ。ただ作る過程が一種の瞑想のようなもので飲むこと自体は目的ではないから。レンジで温め直しながら2日ほどかけて飲み終える。そんな飲み方しかできないなら何故こだわって作るのか。ただの話題作りだよ。「自分で豆を挽いて入れてます」と言った方が会話のスタートとして都合がいいからね。
題『コーヒーが冷めないうちに』
折り目のない1000円も濡れてくしゃくしゃの1000円も価値は一緒。どんな選択をした世界でも、あなたの価値は変わらない。
題『パラレルワールド』
何の変哲もない日常が変化するような淡い期待をする。サイコロやトランプの数字が一致しているような特別感を感じる。実際には何も変わらない。それでも重い瞼(まぶた)を閉じたまま身体を起こす。
また今日が始まる。
題『時計の針が重なって』
顔を向けて相槌を打つ。読んでいた本を閉じる。君は横を向いていて片側の手は小刻みに震えている。僕はソファーに腰掛け、話が始まるまでテレビに目を向ける。その間、特に何も考えていない。
今日はそれ以上、話がなかった。
「それじゃ、また明日ね。一緒にいて楽しかったよ」
玄関で君に伝えるのは感謝の言葉。僕はいつも言葉にしないことは伝わらないと思っている。だから正直に伝える。嬉しかったことや不満だったこと。表面上だけ取り繕うことも出来るけど、時にはハッキリ伝える。無理に会話をしなくても居心地がいいからさ。そんなに緊張しないでいいよ。
「僕と一緒に…」
結局その先の言葉が話されることはなかった。何年先でも待ってるから、気が向いたら話してね。
題『僕と一緒に』
晴れでもなく雨でもない。かつて揺れ動いていた振り子時計が止まってしまったような。それなら休憩しようか。コーヒー豆をミルで削って香りを楽しむ。サンドイッチを片手に、状況の変化をのんびり待つとしよう。そうしてエネルギーを蓄えたら、また走りだそう。人生は短いけどcloudyを楽しむ余裕くらいはある
題『cloudy』