8/18 お題「鏡」
「鏡よ、鏡。教えておくれ。お前が好きなことはなぁに?」
『それは、あなた様とお話しをすることです』
「鏡よ、鏡。教えておくれ。お前の一番好きな人はだぁれ?」
『それは、あなた様です』
「鏡よ、鏡。教えておくれ。お前が嫉妬する相手はだぁれ?」
『それは、王子様です』
「白雪姫。また鏡と遊んでいるのかい?」
「あら、王子様」
「程々にしておくれ。国民に知れたら大変だ、僕と鏡が嫉妬し合っているなんて」
「大丈夫よ。この鏡は人をからかって遊んでいるだけだもの」
『そうでも、ないのですよ。私は真実を映す鏡ですから』
(所要時間:10分)
8/17 お題「いつまでも捨てられないもの」
君がいつも捨てるもの
半日置きっぱなしのカップのコーヒー
冷蔵庫でしなびた小松菜
ゴミの日に出し忘れた空き缶とペットボトル
穴の空いた靴下
掃除機のフィルターにぎっしり詰まったゴミ
テーブルに置きっぱなしのレシートの束
君がいつまでも捨てられないもの
僕との腐れ縁
(所要時間:4分)※構想除く
8/16 お題「誇らしさ」
「また王子の護衛を放ったらかしていなくなっただと?」
騎士団長が声を荒げる。
「まったく、素行の悪さといい貧民街への出入りといい騎士の風上にも置けん! あの男には誇りというものがないのか!」
「まあそう言うな」
王子は笑う。
「あれですべきことはしているのだ」
「奴のすべき事は…」
「私の護衛以外にもある」
「あの、ありがとうございます。何とお礼を言っていいか…」
「あ? いや、いいよ。俺は俺のやるべきことをやっただけだから」
膝についた土を払う。地面には悪漢が3人ごろりと転がってのびている。
「暗い道は気をつけなよ? って言っても悪いのは圧倒的にこいつらだけど」
「はい…。あの、」
「おにいちゃん、これ」
小さな少女の方が、手のひらに乗る程度の人形を差し出す。
「おまもり、あげる。おれいに。ママがつくってくれた…」
「いいよ、持ってな。俺の代わりに守ってくれるようにおまじないしてやるから」
ちょいちょいと指で触れると、少女はにっこりと笑った。
「ありがとう!」
走っていく少女たちを見送る。そんな自分を、青年は少し誇らしく思う。
(所要時間:13分)
8/15 お題「夜の海」
何も、見えない。月も星もない。ただ波の音がするだけ。
ふらり、ふらりと、女が歩く。裸足が砂を踏む。生ぬるい夜風が女のワンピースをなびかせる。
「帰って来て」
ぼそりと、女は口を開いて言葉を落とした。
「帰ってきてよ」
両足から力が抜け、がくりと膝をつく。腕は支えにならず、女は砂の上に突っ伏した。
「置いて行かないで…」
何も、見えない。月も星もない。ただ波の音と、すすり泣く声がするだけ。
(所要時間:6分)
8/13 お題「心の健康」
「心の健康を保つためにわが社全員心がけることー!」
「その1! 全員何があろうと定時で上がる!」
「その2! 同僚や上司の尻拭いを引き受けない!」
「その3! パワハラをする上司は殴り倒す!」
朝の復唱を苦々しく見守るのは、異動してきた部長だった。
「…我々"上"への負担が大きすぎませんかねぇ?」
「構わんよ」
こっそりと見回りにきた専務は悠然と構え、にやりと笑った。
「そもそもその一番"上"の決めたことだ」
(所要時間:11分)
8/14 お題「自転車に乗って」
どこまでも走ろう。君となら行ける。
登り坂はギアを切り替えて、下り坂は―――おっと、スピードを出しすぎないように気をつけて。
君と風を切って、君と風になって、滑るように走る。時には野山を。時にはビルの谷間を。
君の足が力強くペダルを踏む。そのたびに私は力強く前に進む。
さあ、今日はどこへ行こうか、相棒。
(所要時間:8分)