8/7 お題「最初から決まっていた」
どうやら、運命の女神は最初から私の最期を決めていたらしい。
定められた婚約者に会いに行き、そこで濡れ衣を着せられ投獄された。私は妾腹の末子ゆえ、死んだところで故郷がそう困ることもない。むしろ邪魔者が消えることに喜ぶだろうか。
牢の窓から月を眺めていると、何やら廊下が騒がしい。息を潜める。押し問答の気配の末に扉が開き、そこに現れたのは―――
「お助けに参りました」
「……姫?」
少ない共を連れて、婚約者は一礼すると、花のような笑みを見せた。
「最初から決めていたのです。こんな事態になったら、お父様を捨ててあなたを助けると」
驚いた。どうやら、私の運命の女神は彼女であるらしい。
(所要時間:8分)※構想除く
8/6 お題「太陽」
あなたは、私の太陽だ。
まばゆく輝き、世界を、人を、あたたかに照らす。
仄暗い闇に住まう私は、あなたに近寄れない。
あなたの前では、私は一瞬で灰となり、消え去るだろう。
あなたは、私の太陽だ。
せめて最期は、あなたのもとでありたい。
(所要時間:5分)
8/5 お題「鐘の音」
リーン ゴーン リーン ゴーン
―――ここは、天国か。
目の前には大きな扉があった。あたりを見回す。視界は濃い霧がかかったように白い。
―――ついに、ばあさんの所に来たようだ。
扉に目を戻すと、つい今しがたはいなかったはずの、幼い娘が立っていた。
「開けてはいけないよ」
「会いたい人がいるんだ。通してくれんか」
「だめ」
リーン ゴーン リーン ゴーン
「どうしても会いたいんだよ。俺はもう疲れた」
「だめ」
リーン ゴーン リーン ゴーン
鐘の音が大きくなっていく。やがてそれはひび割れんばかりの、雷のような音に変じた。
「待ってくれ、まだ…」
足元が崩れた。闇の中に落ちる。それは地獄に落ちるよりも深い絶望だった。
そして、目が覚めた。
のっそりと布団を出、線香を点けて手を合わせる。仏壇の写真は穏やかに微笑んでいる。
「一目、会いたかったんだがなぁ」
だが、扉の前に立ったあの小さな娘は。あれは、ずっと昔に命を落とした―――
「孫に言われちゃ、もう少し頑張るしかないか」
(所要時間:12分)
8/4 お題「つまらないことでも」
今日の天気、些細な出来事、明日の予定。どんなつまらないことでも、お前は嬉々として話す。話をよく聴いてくれる愛情深い人間が過去近くにいたのだろう。
俺は大概聞き流すが、お前はそれで機嫌をそこねることはなく、めげることもなく次の話をする。
半分も聞いてはいないが、お前の話は嫌いじゃない。
今日もお前はつまらない話をする。俺はそれを隣で聞き流す。
(所要時間:9分)
8/3 お題「目が覚めるまでに」
走らなきゃ。
走らなきゃ。
逢うべき人の元へ。辿り着くべき場所へ。この長い長い通路をひたすらに走る。
幾度となくここを走った。だが通路が終わったことはなかった。いつも、辿り着けない。
けれど今日こそは―――
目が、覚めた。
「また、か…」
疲労感と徒労感。ごろりと寝返りを打ち、深いため息をつく。
あの先に何が待っているのか。どうしても知りたいのに、必ず目が覚めてしまう。
「まあ、いっか」
目が覚めたからには今日が始まる。次に走るのはまた眠った時だ。
あれだけ思い切り走れるのは、夢の中だけだ。僕は片脚の義足を撫でた。
(所要時間:7分)