6/12 お題「好き嫌い」
「好き嫌い好き嫌い好き嫌い好き嫌い好き嫌い好き嫌い」
「速い速い速い」
たんぽぽの花びらを高速でつまんでは投げているのは、幼なじみのモコ。やがて花びらを一気に根こそぎむしった。
「んんーーーーーーっ、好き!!!!!!」
「力強い」
「次っ!!」
「まだやんの?」
この勢いだと土手のたんぽぽが絶滅しかねない。
「だって…」
「はいはい」
一瞬で涙目になる特技もとっくに見慣れてる。あたしは軽くあしらった。
「まあいっか、気が済んだら教えて。本読んでるから」
「おっけー!」
誰に恋してんだか知らないけど、まあ、そんなあんたもあたしは好きだよ。
(所要時間:11分)
6/11 お題「街」
雑踏。大小の話し声。自転車のベル。行き交う車。今日も街は人であふれている。
ぼくは一人、その中に立っている。誰にも気づかれず、誰の邪魔にもならず、ただ立ち尽くしている。
ぼくは希薄なるもの。この世界の"裏側"に棲むもの。
ねえ。
今こうしてぼくを見ている"きみ"は、ぼくに気づいているの?
(所要時間:7分)
6/10 お題「やりたいこと」
最初の進路相談が一応終わった。俺は廊下のスペースに立ち尽くし、大きな窓の向こうの夕焼けにさらされていた。
やりたいことなんて何もない。夢とか希望とか一切ない。何なら生きてるのすら面倒だ。死んでいいならさっさと死にたい。
やりたいことって、何なんだ? みんなそんなのあるのか? みんな口に出さないだけで、本当は死にたいんじゃないのか?
「じゃあさ」
突然の声が俺をぎょっとさせた。見覚えのない女が隣で夕日を浴びていた。
「私のやりたかったこと、代わりにやってくれない? どう? いい?」
そいつは悪びれずににこっと笑う。正直可愛い。だが。
「いいわけないだろ」
「たとえばキスとか」
「は?!」
「冗談。またね」
そいつは手を振りながら角を曲がって走り去る。少しだけ追いかけて同じ角を曲がると、そこには誰もいなかった。
(所要時間:10分)※構想除く
6/9 お題「朝日の温もり」
小鳥の鳴き声が夢に射し込んできて、薄く目を開ける。レースのカーテンで柔らげられた朝日が、ベッドに光を積もらせている。
―――あったかいな。
―――でも、あなたの方が、あったかい。
隣に手を伸ばす。その手は空を切って落ちた。ぼんやりと目を向けると、隣にいるはずの人がいない。
まだ、夢を見てる。そう思った。だからそのまま眠りに落ちた。
「対象の様子は?」
「やはり、日が差してから一瞬だけ覚醒するようです。しかし…」
「すぐに意識レベルが落ちる、か。太陽光センサーの異常としか考えられないが…」
「ですが、何度確認しても異常はありません」
「…人間としての記憶が何らかの形で作用しているのか…」
まだ、夢を見てる。あなたが隣りにいるのを確かめられるまで。
(所要時間:16分)
6/8 お題「岐路」
「しまっ―――」
あの時、右の道を行っていれば。崩れる橋から落下しながら僕は悔やんだ。悔やんでも仕方のない事だ。僕の命は終わる。
目を開いた。僕は生きている。どういうわけか、あの分かれ道だ。
助かった。もちろん僕は、さっき選ばなかった右の道を進んだ。
これが正解だ。意気揚々と森を進む僕は、突然後ろから引き倒された。獣だ。そうわかった時には激痛が意識を奪った。
目を開いた。僕は生きている。どういうわけか、あの分かれ道だ。
僕は来た道を一目散に駆け戻った。走る。走る。僕が生き残る道はこれしかない。
夜だ。疲れ果てた僕は、川のせせらぎを聞いた。水を飲もう。そう思って屈んだ瞬間、足を滑らせて転落した。川は思いのほか深く、すぐに飲まれて呼吸を失った。
目を開いた。僕は生きている。どういうわけか、あの分かれ道だ。
いや、道はない。体が震えた。僕の生き残る道など、ひとつもない。膝をついたまま、僕はもう、立ち上がれない―――
(所要時間:15分)