6/8 お題「岐路」
「しまっ―――」
あの時、右の道を行っていれば。崩れる橋から落下しながら僕は悔やんだ。悔やんでも仕方のない事だ。僕の命は終わる。
目を開いた。僕は生きている。どういうわけか、あの分かれ道だ。
助かった。もちろん僕は、さっき選ばなかった右の道を進んだ。
これが正解だ。意気揚々と森を進む僕は、突然後ろから引き倒された。獣だ。そうわかった時には激痛が意識を奪った。
目を開いた。僕は生きている。どういうわけか、あの分かれ道だ。
僕は来た道を一目散に駆け戻った。走る。走る。僕が生き残る道はこれしかない。
夜だ。疲れ果てた僕は、川のせせらぎを聞いた。水を飲もう。そう思って屈んだ瞬間、足を滑らせて転落した。川は思いのほか深く、すぐに飲まれて呼吸を失った。
目を開いた。僕は生きている。どういうわけか、あの分かれ道だ。
いや、道はない。体が震えた。僕の生き残る道など、ひとつもない。膝をついたまま、僕はもう、立ち上がれない―――
(所要時間:15分)
6/8/2023, 11:58:23 AM