6/2 お題「正直」
「ホントにさ、いい加減にしろっての」
文句を垂れながら、今日も一緒に帰る。
「何で男女なら何でもくっつけたがるんだろ」
「そういうお年頃なんだよ」
「アンタだって同じそのお年頃じゃん」
「あ、そうだね」
言いながら幼馴染はにこにこしてる。コイツはいっつもそうだ。
「イヤじゃないの? あんなふうに言われてさ」
「うーん、別に」
「だってアタシたち付き合ってるわけじゃないし」
「うん」
「他に友達だっているし」
「うん」
「別のオトコと噂になったって別によくない?」
「よくない」
「へっ?」
思わず振り返れば、相変わらずのにこにこ顔。
「みぃは俺が別の女子と噂になってもいいの?」
口をぱくぱくと開閉させ、閉じて一文字に引き結び、結局出た言葉は―――
「よくない」
「だよねー」
コイツのキラキラした笑顔、ほんとずるい。
(所要時間:10分)
6/1 お題「梅雨」
まるで水の中にいるみたいだ。
ビルの屋上から見下ろす景色は全てが濡れた灰色に煙り、吸い込む空気は滴るほどの水分を含んで、火の消えそうな煙草の味を溺れさせる。
厚い雲は頭のすぐ上だ。誰かが上から掻き分けて顔を出す、そんな想像をしてアタシは笑った。
不意に、とぷん、という音を背後に聞いてアタシは振り返る。
それは―――風の人魚、とでも言えばいいのか。腕の代わりに肩に生えるのは透き通った羽。細い腰から下はヒレを従えた長い尾。
相手は驚いた様子もなくアタシを見、体を柔らかくひるがえして宙を舞い上がり、灰色の雲に消えた。
幻かな。こんな日は、それも悪くない。
(所要時間:14分)
5/31 お題「天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、」
「天気がいいね」
「うん…、そう、だね」
「綺麗な夕焼け」
「……うん」
欄干の上に両手を乗せて、キミは眩しそうに夕陽を見ている。
キミが好きだ。
会って二ヶ月でも、キミに彼氏がいても、ボクが同性でも。今日なら、何でも言えそうな気がしてた。きっと言えると思ってた。
キミが好きだ。
でもキミは、いつもと変わらない穏やかな笑みを唇に乗せて、暖かく柔らかな風をまとって、ボクの言葉を夕陽の彼方に押しやってしまう。
明日、世界が滅ぶのに。
(所要時間:10分)
5/30 お題「ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。」
駄目だ。もう、走れない。膝をつき、草むらに倒れ込む。
悪夢が追ってくる。迫ってくる。
「違う…違う、俺じゃない! 俺のせいじゃ、ない…!」
その声すら掠れ、己を守るには至らない。
不意に現実に放り投げられたように、目を覚ました。俺の左右の瞼は、涙をひとつずつまろび出した。
わかっている。俺が何を言ったところで、あいつはただ控えめに笑うだけだ。だが。
わかっていた。口には出せずとも、嫌というほど。
あいつの夢を砕いたのは、俺だ。
(所要時間:10分)
5/29 お題「ごめんね」
アタシら、色々あったよね。
初めて会った時から。違うな、そのずっと前からだ。
お互い嘘しか言ってなかった。全部裏で仕組まれてた事だったから。
笑い合っても、喧嘩してても、顔を合わせても、愛し合っても。本気だの、本気じゃないだの、それも全部。
本当に、嘘ばっかりだった。
でもさ。これで、もう全部終わり。
アンタの大好きなブラッドオレンジジュース、瓶で墓に置いてくよ。
ねえ。
もう、嘘つく必要なくなったから―――
ごめんね。
(所要時間:11分)※構想除く