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6/2/2023, 11:26:59 AM

6/2 お題「正直」

「ホントにさ、いい加減にしろっての」
 文句を垂れながら、今日も一緒に帰る。
「何で男女なら何でもくっつけたがるんだろ」
「そういうお年頃なんだよ」
「アンタだって同じそのお年頃じゃん」
「あ、そうだね」
 言いながら幼馴染はにこにこしてる。コイツはいっつもそうだ。
「イヤじゃないの? あんなふうに言われてさ」
「うーん、別に」
「だってアタシたち付き合ってるわけじゃないし」
「うん」
「他に友達だっているし」
「うん」
「別のオトコと噂になったって別によくない?」
「よくない」
「へっ?」
 思わず振り返れば、相変わらずのにこにこ顔。
「みぃは俺が別の女子と噂になってもいいの?」
 口をぱくぱくと開閉させ、閉じて一文字に引き結び、結局出た言葉は―――
「よくない」
「だよねー」
 コイツのキラキラした笑顔、ほんとずるい。


(所要時間:10分)

6/1/2023, 11:37:10 AM

6/1 お題「梅雨」

 まるで水の中にいるみたいだ。
 ビルの屋上から見下ろす景色は全てが濡れた灰色に煙り、吸い込む空気は滴るほどの水分を含んで、火の消えそうな煙草の味を溺れさせる。
 厚い雲は頭のすぐ上だ。誰かが上から掻き分けて顔を出す、そんな想像をしてアタシは笑った。
 不意に、とぷん、という音を背後に聞いてアタシは振り返る。
 それは―――風の人魚、とでも言えばいいのか。腕の代わりに肩に生えるのは透き通った羽。細い腰から下はヒレを従えた長い尾。
 相手は驚いた様子もなくアタシを見、体を柔らかくひるがえして宙を舞い上がり、灰色の雲に消えた。
 幻かな。こんな日は、それも悪くない。

(所要時間:14分)

5/31/2023, 11:44:33 AM

5/31 お題「天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、」

「天気がいいね」
「うん…、そう、だね」
「綺麗な夕焼け」
「……うん」
 欄干の上に両手を乗せて、キミは眩しそうに夕陽を見ている。
 キミが好きだ。
 会って二ヶ月でも、キミに彼氏がいても、ボクが同性でも。今日なら、何でも言えそうな気がしてた。きっと言えると思ってた。
 キミが好きだ。
 でもキミは、いつもと変わらない穏やかな笑みを唇に乗せて、暖かく柔らかな風をまとって、ボクの言葉を夕陽の彼方に押しやってしまう。
 明日、世界が滅ぶのに。

(所要時間:10分)

5/30/2023, 11:38:21 AM

5/30 お題「ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。」

 駄目だ。もう、走れない。膝をつき、草むらに倒れ込む。
 悪夢が追ってくる。迫ってくる。
「違う…違う、俺じゃない! 俺のせいじゃ、ない…!」
 その声すら掠れ、己を守るには至らない。
 不意に現実に放り投げられたように、目を覚ました。俺の左右の瞼は、涙をひとつずつまろび出した。
 わかっている。俺が何を言ったところで、あいつはただ控えめに笑うだけだ。だが。
 わかっていた。口には出せずとも、嫌というほど。
 あいつの夢を砕いたのは、俺だ。

(所要時間:10分)

5/29/2023, 11:05:28 AM

5/29 お題「ごめんね」


 アタシら、色々あったよね。
 初めて会った時から。違うな、そのずっと前からだ。
 お互い嘘しか言ってなかった。全部裏で仕組まれてた事だったから。
 笑い合っても、喧嘩してても、顔を合わせても、愛し合っても。本気だの、本気じゃないだの、それも全部。
 本当に、嘘ばっかりだった。
 でもさ。これで、もう全部終わり。
 アンタの大好きなブラッドオレンジジュース、瓶で墓に置いてくよ。
 ねえ。
 もう、嘘つく必要なくなったから―――
 ごめんね。

(所要時間:11分)※構想除く

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