頁。

Open App
12/22/2023, 7:16:55 AM

 灰色の雲。白い雪。よくよく見ると大小も形状もすべて異なるそれらの向こう側を、何をするでもなくただじぃと見つめる。
 夏はもっと広かったので狭いと思っていたけれど、こうしていると、やはり空は空なのだなぁと悠長に考える。指先は悴んであまり感覚がない。
「──やぁっと捕まえた!」
 そんな左手に、柔っこくて温かいものが触れる。見ると、よく知った顔が鼻を真っ赤にして、肩で息をしていた。
「やあ。遅かったじゃないか」
「遅かった、じゃないんですよ! 紙切れひとつっきり置いていったい何処に行ってたんですか」
「いや~、こんな見事に雪が降っていると、もっと近くで見てみたくなるものだよねぇ」
「そんな悠長なっ」
 だいたい貴方は──と、いつもどおりのくどい説教が始まる。やれやれ、心配性なひとだなぁ。
「お説教はあとで聞くから、一先ず家に帰らないかい? 君もこんな寒い中を走っていたんだ、随分と体が冷えてしまっただろう」
「誰のせいだと……?」
 むっと口を尖らせるそのひとの手をひいて、僕はもうすっかり冷えてしまったから温かいお湯に浸かりたいなぁと言えば、眉間の皺も少々緩んで、仕方ありませんね、と手をひかれる。
 ぼくよりも低い位置につむじの見えるそのひとの背中を眺めて、あんなに小さかったのに、もうこんなにも大きく立派になったのか、と感心する。ひとの成長とはこんなにも早かったのか、と。
 他人に心労を掛けるのが嫌で常に心配する側にいたものだけれど、たまには、こうして心配されるのも悪かないな。
 少し遠くにあるあたたかなオレンジから、芋粥の匂いがした。


▶大空 #49

12/20/2023, 7:48:01 AM

 寂しいはずなのに
 寂しくないって
 あなたはあからさまな嘘をつく。

 そんなに肩肘張らなくても、なんて
 言わなけりゃよかったのかなあ。


▶寂しさ #48

12/16/2023, 3:22:11 PM

 同居人が風邪を引いた。
 昨日から付きっきりで看ているけど一向に熱が下がらず、空咳も収まらない。
「だからさっさと髪を乾かせと言ったんだ」
「う、ごめんなさい……けほっ」
「……はあ。まあいいけど」
 昼からお医者さんに診てもらおうかと言えば、明らかにゲェという顔をする同居人。まったく、いくつになってもこの医者嫌いは治らないらしい。
「とりあえずお粥作ったけど、食欲はおありで?」
「ある! ちょーお腹空いた!」
「はいはい。じゃあ鍋持ってくるから、この手、離してくれない?」
 さっきから服の裾を握られていたのだが、動きづらくてちょっと邪魔、なんていうと泣き出しかねないので優しく言う。……優しいはずだ。
 その考慮が効いたのか、若干渋りながらもおとなしく手を離してくれたので、お粥の入った小鍋を取りにキッチンへ。それを、水を入れたコップと共にお盆にのせてから部屋に戻る。
 同居人は私を見るなり、目をキラキラさせてお盆に手を伸ばした。そんなにお腹が空いていたんだなあ。
 ベッド横に置いていた椅子に腰掛けて、小鍋の蓋をとる。途端、湯気と出汁の香りが立ち上った。
「はい、どうぞ。無理せず吐かない程度に食べるんだぞ~」
「はーい! いっただっきまーす!」
 同居人は、さっきまでの咳が嘘のようにパクパクとスプーンを進める。
 うーん、やはりこいつは実に美味しそうに食べる。作りがいがあるというものだ。

 その晩のリビングには、医者に処方されたほんのすこしのスパイスを必死に飲み下し、この世の終わりのような表情で口元を押さえる同居人の姿に、ぼくはすっかり笑い転げてしまった。


▶風邪 #47

12/2/2023, 3:01:00 AM

 手のひとつも握れやしない貴女との距離を
 これ以上詰められないのがもどかしい。


▶距離 #46

11/30/2023, 4:03:00 PM

 ごめんね、なんて言わないで。
 泣かないで、なんて言わないで。
 泣いてなくても「どうしたの」って声を掛けて欲しいだけなの。笑い掛けて欲しいだけなの。
 一時の慰めなんかじゃなくて、もっと私を見ていてほしいと。そう望むのはいけない事なのかな。


▶泣かないで #45

Next