灰色の雲。白い雪。よくよく見ると大小も形状もすべて異なるそれらの向こう側を、何をするでもなくただじぃと見つめる。
夏はもっと広かったので狭いと思っていたけれど、こうしていると、やはり空は空なのだなぁと悠長に考える。指先は悴んであまり感覚がない。
「──やぁっと捕まえた!」
そんな左手に、柔っこくて温かいものが触れる。見ると、よく知った顔が鼻を真っ赤にして、肩で息をしていた。
「やあ。遅かったじゃないか」
「遅かった、じゃないんですよ! 紙切れひとつっきり置いていったい何処に行ってたんですか」
「いや~、こんな見事に雪が降っていると、もっと近くで見てみたくなるものだよねぇ」
「そんな悠長なっ」
だいたい貴方は──と、いつもどおりのくどい説教が始まる。やれやれ、心配性なひとだなぁ。
「お説教はあとで聞くから、一先ず家に帰らないかい? 君もこんな寒い中を走っていたんだ、随分と体が冷えてしまっただろう」
「誰のせいだと……?」
むっと口を尖らせるそのひとの手をひいて、僕はもうすっかり冷えてしまったから温かいお湯に浸かりたいなぁと言えば、眉間の皺も少々緩んで、仕方ありませんね、と手をひかれる。
ぼくよりも低い位置につむじの見えるそのひとの背中を眺めて、あんなに小さかったのに、もうこんなにも大きく立派になったのか、と感心する。ひとの成長とはこんなにも早かったのか、と。
他人に心労を掛けるのが嫌で常に心配する側にいたものだけれど、たまには、こうして心配されるのも悪かないな。
少し遠くにあるあたたかなオレンジから、芋粥の匂いがした。
▶大空 #49
12/22/2023, 7:16:55 AM