同居人が風邪を引いた。
昨日から付きっきりで看ているけど一向に熱が下がらず、空咳も収まらない。
「だからさっさと髪を乾かせと言ったんだ」
「う、ごめんなさい……けほっ」
「……はあ。まあいいけど」
昼からお医者さんに診てもらおうかと言えば、明らかにゲェという顔をする同居人。まったく、いくつになってもこの医者嫌いは治らないらしい。
「とりあえずお粥作ったけど、食欲はおありで?」
「ある! ちょーお腹空いた!」
「はいはい。じゃあ鍋持ってくるから、この手、離してくれない?」
さっきから服の裾を握られていたのだが、動きづらくてちょっと邪魔、なんていうと泣き出しかねないので優しく言う。……優しいはずだ。
その考慮が効いたのか、若干渋りながらもおとなしく手を離してくれたので、お粥の入った小鍋を取りにキッチンへ。それを、水を入れたコップと共にお盆にのせてから部屋に戻る。
同居人は私を見るなり、目をキラキラさせてお盆に手を伸ばした。そんなにお腹が空いていたんだなあ。
ベッド横に置いていた椅子に腰掛けて、小鍋の蓋をとる。途端、湯気と出汁の香りが立ち上った。
「はい、どうぞ。無理せず吐かない程度に食べるんだぞ~」
「はーい! いっただっきまーす!」
同居人は、さっきまでの咳が嘘のようにパクパクとスプーンを進める。
うーん、やはりこいつは実に美味しそうに食べる。作りがいがあるというものだ。
その晩のリビングには、医者に処方されたほんのすこしのスパイスを必死に飲み下し、この世の終わりのような表情で口元を押さえる同居人の姿に、ぼくはすっかり笑い転げてしまった。
▶風邪 #47
12/16/2023, 3:22:11 PM