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9/30/2023, 2:12:22 AM

 十五夜の夜にあなたと見た満月を、ずっと忘れられずにいる。
 外だと蚊に刺されてしまうと言って、外に出たがらなかったあなた。仕方なしに、ベランダ沿いの部屋から窓の外を見上げていたね。
 お互いなにも話さずにそうしていたから、翌朝には首を痛めてしまっていたっけ。
 物思いに耽って、あっ、と不意に声をあげる。
 そういえば、あの時食べた草饅頭美味しかったな。今夜も準備しておけばよかった。
 ──あの饅頭も、驚いたあなたの瞳も、この月みたいに真ん丸だった。
 こんなに厳かな雰囲気は持ち合わせちゃいなかったけどね。
 それから、あなたの隣で眺めた月は、これの何十倍も、何百倍も色鮮やかに輝いていたような気もする。
 うーん、私の記憶力もずいぶんと衰えたものだ。
「……………ああ、」
 逢いたいなぁ。あなたに。


▶静寂に包まれた部屋 #20

9/29/2023, 7:22:58 AM

 ほんとにね、言うつもりなんて無かったの。なんの後悔も、後腐れもなく、さっぱりと終わってやろうって。ずっと前から決めてたから。
 ほら、実際に冷たくあしらってたでしょ、君のこと。
 だけど………、あはは。

 前、君はあたしに向かって言った。
 あなたの意思の弱さはピカイチだ! って。
 忘れたなんで言わせないよ。これでもず~っと気にしてたんだから。今だって引き摺ってるし。
 まあでも、まったくその通りだったみたいだね。

 ほんと。なんで言っちゃったんだろう。

 ──いかないで、なんて。


▶別れ際に #19

9/27/2023, 2:31:06 PM

 なんだか、空がどんよりと重たい気がして。
 急いで軒下に駆け寄ると、瞬間、ザアッと雨が降り始めた。
(ああ、駆け込んでよかった……)
 腹のほうで抱えていたリュックサックを抱きしめる。
 ここには大切な資料が入ってるし、傘も持ってなかったから、すぐ近くに軒があったのはほんとうにラッキーだ。もしかしたら今週の運をすべて使ってしまったのかもしれない。まあそれでも悔いはないけれど……。
 一頻りくすくすと笑って、ふう、と息を吐く。
 もう雨は止んでいた。
 そういえば、通り雨ってなんであんなにも勢いがいいのだろうか。
 ぼんやりとそんなことを考えて、ふと考える。
 さて、この雨が止んだらどこに行こうか。
 家に帰ろうと思っていたけど、それよりもやりたいことが出来たから。
 私は今日、晴れた空の青色以外にも、焼く前のうすっぺらいピザ生地みたいな雲や、それらが落とす、透明な涙があることを知ってしまった。
 そうしたら、もう屋内でおとなしくしていられない。
 私は、自分で言うのもなんだけど、知的好奇心は強い方なのだ。
「よぅし、今日は探検だ~!」
 ひとり拳を空に突き上げた。
 空はすでに朱く染まりつつある。
 


▶通り雨 #18

9/24/2023, 1:49:40 PM

 生。愛情。信仰。空気。そぞろ。悲痛。怒り。決意。感情。言葉。自由。不安。苦肉。そぞろ。良縁。幸福。感情。行動。想い。愛。死。

 それらはすべて、


▶形の無いもの #17

9/23/2023, 9:47:30 AM

 仄暗い洞窟の奥から、声が聞こえる。
 どうにも僕の耳には、たすけて、と言っているように聞こえるそれは、しかし周囲の者にとって恐怖の対象でしかなかったらしい。

 声が聞こえだして早一ヶ月。村ではあの洞窟を埋めようという話が固まりつつあった。
 全く、普段は村人間での交流すら閉鎖的だというのに……どいつもこいつもこんな時は積極的だな。と呆れていると、もちろんお前も手伝うんだぞ!と声を掛けられる。
 正直気は乗らないが、致し方あるまい。
 目的を果たすためならば多少の犠牲はあって然るべき。犠牲なき達成は誰からも赦されない。……いや、あのこなら笑顔で許しかねないけど。
 あのこと、あのこの住み処を守るため。彼らに、ちぃとばかり犠牲になってもらおう。


▶声が聞こえる #16

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