なんだか、空がどんよりと重たい気がして。
急いで軒下に駆け寄ると、瞬間、ザアッと雨が降り始めた。
(ああ、駆け込んでよかった……)
腹のほうで抱えていたリュックサックを抱きしめる。
ここには大切な資料が入ってるし、傘も持ってなかったから、すぐ近くに軒があったのはほんとうにラッキーだ。もしかしたら今週の運をすべて使ってしまったのかもしれない。まあそれでも悔いはないけれど……。
一頻りくすくすと笑って、ふう、と息を吐く。
もう雨は止んでいた。
そういえば、通り雨ってなんであんなにも勢いがいいのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えて、ふと考える。
さて、この雨が止んだらどこに行こうか。
家に帰ろうと思っていたけど、それよりもやりたいことが出来たから。
私は今日、晴れた空の青色以外にも、焼く前のうすっぺらいピザ生地みたいな雲や、それらが落とす、透明な涙があることを知ってしまった。
そうしたら、もう屋内でおとなしくしていられない。
私は、自分で言うのもなんだけど、知的好奇心は強い方なのだ。
「よぅし、今日は探検だ~!」
ひとり拳を空に突き上げた。
空はすでに朱く染まりつつある。
▶通り雨 #18
生。愛情。信仰。空気。そぞろ。悲痛。怒り。決意。感情。言葉。自由。不安。苦肉。そぞろ。良縁。幸福。感情。行動。想い。愛。死。
それらはすべて、
▶形の無いもの #17
仄暗い洞窟の奥から、声が聞こえる。
どうにも僕の耳には、たすけて、と言っているように聞こえるそれは、しかし周囲の者にとって恐怖の対象でしかなかったらしい。
声が聞こえだして早一ヶ月。村ではあの洞窟を埋めようという話が固まりつつあった。
全く、普段は村人間での交流すら閉鎖的だというのに……どいつもこいつもこんな時は積極的だな。と呆れていると、もちろんお前も手伝うんだぞ!と声を掛けられる。
正直気は乗らないが、致し方あるまい。
目的を果たすためならば多少の犠牲はあって然るべき。犠牲なき達成は誰からも赦されない。……いや、あのこなら笑顔で許しかねないけど。
あのこと、あのこの住み処を守るため。彼らに、ちぃとばかり犠牲になってもらおう。
▶声が聞こえる #16
インパチェンスのようなあなたに恋をした。
どうか、この気持ちが早々に枯れて、風にゆれるあの赤い花火のようになってしまいませんように。
▶秋恋 #15
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インパチェンスの花言葉「鮮やかな人」
きみの言葉。
きみの自由。
きみからぼくへ、ぼくからきみへの相互関心。
きみの意志。
きみへ向けられる思い。
きみの、ぼくへの思い。
それらを全部、上手に表現できたなら、その時、きっときみは自由になれる。
そうしたらさ。もしほんとうにその時が来たら、広くも狭くもないその後ろ姿にめいっぱい広げた翼を羽ばたかせて、あの雄大で寛大な空に向かって飛んでいこうよ。
大丈夫、僕が必ずきみを守るよ。一等大事なきみに傷ひとつ付けさせやしないから。
▶大事にしたい #14