とある

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12/2/2023, 3:35:11 PM

いい加減潰れるやつも出てきた飲み会を抜け、自室に戻ろうと廊下に出ると月が煌々と中庭を照らしていた。いい夜だ。火照る顔に当たる風は心地よく、季節が進んでいるの感じた。
明日は昼からとはいえ、水でも飲んで休むとするか。
そう思っていると視界に違和感を覚えた。動くものではないけれど普段はそこにはないものがあるような。しばらく立ち止まって考えていると、さすがに寒さが身にしみる。水じゃなくて白湯にするか。諦めて歩き出そうとしたときだった。
廊下からぎりぎり見える向かいの棟の端に、人影が見えた。


「おい、何してんだよ」
そう声をかけるとハッとしたようにやつは顔を上げた。普段から血色が良いとは言えない顔が月光を反射するように白んでいる。チッ。
「ほらよ」
角盆ごと脇に押しやると無言のまま目を丸くしている。柄じゃねえのはわかってんだよ、ったく。
「ついでだ、ついで。さみいから飲む気だったんだ」
湯気が立ち上る湯呑を持つ気配がないがそんなの知ったことか。自分の分を取って柱に体重を預けた。
ズッ。ズズッ。
ようやく飲み始めたのを見て膜が張り始めた中身を無言で飲んでいく。やっぱさみぃな。飲み干した器を盆に戻しながらやつを見れば、少し赤みがさしていた。
「んで、何してたんだよ」
ズズッ。
すぐには応えは返ってこなかった。こういうのは別のやつの領分だろうが……。誰か呼びに行くかと立ち上がりかけた時声がした。
「この静寂にとけたくなるって言ったら、笑う?」
涙など流れてはいないのに泣いていると思った。



@光と闇の狭間で

11/29/2023, 4:15:50 PM

いつもきみが着ている、日に透けて柔らかく波打つ布。空の色をまとう様は神秘的で、何度見ても初めてあったときのことを思い起こしてしまう。

そんなきみがこの季節。
少しだけ装いを変えるのを私は楽しみにしている。

色味は変えず内側だけ。
もふっとした、触り心地のよいそれを、普段以上に巻きこむ姿。

今年もこの季節になったんだなぁ。

寒がりなあの子のために、お勤めが終わったら火鉢を出してあげようか。
お気に入りの和菓子屋のあんこを買って、火鉢で炙ったお餅を入れて。疲れて冷えた身体に染み渡るぜんざいを作って待っていよう。



@冬のはじまり

11/15/2023, 1:59:44 PM

秋の風は色のないものだと、
和歌の授業で先生が言っていらっしゃいました。

秋は陰陽五行説で白、だから色がない、と。
それを聞いていたからでしょうか。


あの方に
さよならを告げられた私の頬に感じる風は。
冷たくて色がないのです。


紅葉の庭の極彩色も、空高く澄んだ蒼も。
あの人の髪の色も目の色も。
あんなにキラキラしていた溢れていた色たちが。


すべて色をなくしてしまいました。


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《秋風》
「秋」を「飽き」に掛けて、
男女間の愛情が冷めることのたとえ。

11/11/2023, 2:40:31 PM

【飛べない翼】

羽ばたけど音のみ立つる我が翼

力におもねり向きを変えるか