とある

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いい加減潰れるやつも出てきた飲み会を抜け、自室に戻ろうと廊下に出ると月が煌々と中庭を照らしていた。いい夜だ。火照る顔に当たる風は心地よく、季節が進んでいるの感じた。
明日は昼からとはいえ、水でも飲んで休むとするか。
そう思っていると視界に違和感を覚えた。動くものではないけれど普段はそこにはないものがあるような。しばらく立ち止まって考えていると、さすがに寒さが身にしみる。水じゃなくて白湯にするか。諦めて歩き出そうとしたときだった。
廊下からぎりぎり見える向かいの棟の端に、人影が見えた。


「おい、何してんだよ」
そう声をかけるとハッとしたようにやつは顔を上げた。普段から血色が良いとは言えない顔が月光を反射するように白んでいる。チッ。
「ほらよ」
角盆ごと脇に押しやると無言のまま目を丸くしている。柄じゃねえのはわかってんだよ、ったく。
「ついでだ、ついで。さみいから飲む気だったんだ」
湯気が立ち上る湯呑を持つ気配がないがそんなの知ったことか。自分の分を取って柱に体重を預けた。
ズッ。ズズッ。
ようやく飲み始めたのを見て膜が張り始めた中身を無言で飲んでいく。やっぱさみぃな。飲み干した器を盆に戻しながらやつを見れば、少し赤みがさしていた。
「んで、何してたんだよ」
ズズッ。
すぐには応えは返ってこなかった。こういうのは別のやつの領分だろうが……。誰か呼びに行くかと立ち上がりかけた時声がした。
「この静寂にとけたくなるって言ったら、笑う?」
涙など流れてはいないのに泣いていると思った。



@光と闇の狭間で

12/2/2023, 3:35:11 PM