【私の当たり前】
「わ、なんだコレ」
私がいつものように危険運転を繰り返していると、タイヤがバーストした。
こんな時は人に頼るに限る。
火花をちらしながら職場につくと同僚に聞いた。
同僚「予備のタイヤがあるから貸してあげるよ。クギがたくさん刺さってるけど」
使えん。
仕方ないので後輩に聞いた。
後輩「え?タイヤが使えないなら新しい車を買えばいいだけですよね。ていうか、そんな状態で会社に来たんですか。バカなんですか?」
クソが。
仕方ないので課長に聞いた。
課長「そっかー。車が使えないなら仕事に来れないよね。首にしよう」
ゴミが。
仕方ないのでその辺のおっさんに聞いた。
おっさん「人のタイヤを盗めばいいだけだよね。バレなければ犯罪じゃないし」
なるほど。採用だな。
─しかしこの時の私は気づいていなかった。
新しいタイヤを買うという現実的解決法が存在していたことに。
【君と最後に会った日】
私が渋谷の駅前で日課の変人ダンスをしていると少年に声をかけられた。
「1000円貸してくれませんか?」
話を聞くと青森に行きたいが財布を落としてしまったのでお金を借りたいらしい。
可哀想に。
同情した私は快く1000円を貸した。
少年はお礼を言い駆け足で何処かに消えていった。
いいことをしたな。
私が幸せを全身で感じていると隣でことの一部始終を見ていた親友の佐伯が言った。
「お前。騙されてるよ」
「え?」
意味がわからない。
「考えてもみろ。1000円で青森に行けるか?」
「あ」
それは確かに。
「しかもこの肌寒い中、薄着だったし。断言するけどあの少年は今頃ほそくえみながらラーメンでもすすってるよ。ご愁傷さま」
なんてことだ。
真実を知った私にこみ上げてきたのは悲しみではなく燃え上がるような怒りだった。
クソガキめ。許さん。
私はこんなこともあろうかとお札につけていた発信機でガキの居場所を特定すると走って追いかけた。
〜1週間後
不眠不休で走り続けた私は青森県の某街で力尽きた。
【また明日】
「おいちぃぃぃー」
チュルチュルチュル。
私が四つん這いになって床に落ちたストローを口から出したり吸ったりしているとふいに声をかけられた。
「先輩!何してるんですか?」
後輩の田中君だ。
私はすっと立ち上がるとそれらしいことを言った。
「人はみんなこうして成長していくんだ」
しかし田中君には通じなかった。
「ちょっと何言ってるか分からないです。そもそも、そのストロー僕のですよね。納期も近いのにバカなことやってないで働いて下さい」
辛辣だ。
「ストローは洗って返そう。仕事のことは分かってるよ」
急に現実に戻されてゲッソリした私はとりあえず服を着て自分の席に戻ることにした。
連勤は60日目に突入していた。
【後悔】
今日は友達を誘ってバーベキューに来ている。
私が材料のハトを解体していると親友の佐伯が叫んだ。
「うわ!お、お、おまえ。正気か。おぇぇーーーー」
言い終わると同時に佐伯は吐いた。体は痙攣し顔は真っ青になっている。
しまった!
温室育ちの軟弱腰抜け一般人には刺激が強すぎたか。
私はとっさに嘘をついた。
「実は昨日法律が変わってハトは許可なく無制限に焼き鳥にしてよくなったんだよ。知らなかったの?」
すると佐伯の顔から一瞬で生気が戻ってきた。
「なんだそうだったのか。焦って損した。じゃあついでにこれも使ってくれ」
佐伯はカバンから大きな袋を取り出した。
「!!!」
袋にはかつてハトだったものがたくさん詰められていた。
佐伯は自慢げに言った。
「こんなこともあろうかと庭を荒らしていたハトを捕まえていたんだ」
こんなことってどんなことだよ。
「ちなみに車にあと3袋あるから」
誰だよこんなヤバイ奴を連れてきたのは(泣)
常日頃から良識のある行動を心がけている私は頭を抱えるしかなかった。
【何もいらない】
金の斧と銀の斧の話を知っているだろうか。
幼い頃から超絶仲良しの友達が例の川を見つけたらしく私は意気揚々とやってきた。
川に斧を落とすと妖精が出てきて言った。
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか?」
よし来たぞ。ここで謙虚さをアピールして億万長者になって人生無双してやる。
私は言った。
「何もいらない」
「???」
妖精はしばらく悩んでいたが納得したように言った。
「つまりあなたは俗世に染まらずあらゆるものから自由になりたいということですね。分かりました」
「え?」
コイツ何言ってるの?
妖精は続けた。
「ではとりあえずあなたの家と財産は全て処分しておきますね」
「ええ?」
「あと家族も邪魔でしょう。海外の辺境の地に飛ばしますね」
「えええ?」
「それから毎月の給料もいりませんよね?全てユニセフに送金されるようにしておきますね」
「ええええ?」
「最後に友達は、、、失礼。友達はもともといないようですね。忘れてください」
「ええええええええええええ!」
私は全てを失った。