【鋭い眼差し】
仕事の帰り道。
私は車で150キロというごく標準的なスピードで信号無視を繰り返しながら逆走していたところ警察に止められた。
「何か?」
私は警察官を前に平然を装いながらも内心焦っていた。
さっきタバコのポイ捨てをしたのがまずかったのかもしれない。
警察官は言った。
「実は最近この辺りで野生動物が惨殺されるという事件が多発していまして。トランクの中を見せてもらってもいいですか?」
何だそんなことか。
私は車のトランクを堂々と開けた。
すると中から猟銃が大量に出てきた。
しまった!忘れてた。
「これはいったい何ですか?」
警察官が睨んできた。
私は言い訳をした。
「待って下さい。これは親が勝手に積んだものですよ。それに私は人間以外に銃を使ったことはありません」
「しかし─」
まだ疑っている警察官に対して私もそろそろ限界が来た。
「いい加減にしてください!これが国のやり方ですか?こっちは薬が切れそうでイライラしたしているのに」
警察官は申し訳無さそうに言った。
「すみません。こちらの勘違いのようです。ところでさっきから携帯で何をしているんですか?」
「運転中は暇なんで友達とおしゃべりしています」
「え?」
私は運転中に携帯を使用した疑いで逮捕された。
【過ぎた日を思う】
卒業式後の教室。
私は机に体をこすりつけて感傷に浸っていた。
「アッアッアッヒィー」
これで最後かと思うと名残惜しい。
私は机の上に立つと服を引っ張りながら踊りだした。
「カオナシのまねーアヒィィィー」
だんだん楽しくなってきた。
しかし、
「何をしている!」
警備員が来た。大声ではしゃぎすぎたか。
私は弁解した。
「実は卒業したばかりで浮かれてしまって、すみません」
すると警備員はニヤッと笑った。
「つまり、卒業したお前は学校とは関係がないということだな。建造物侵入罪で貴様を処刑する」
「あへ?」
私は間抜けな声を出してしまった。
コイツは何を言っているのだ。
「待って下さい。薄汚い下民風情が適当なこと言わないで下さい。地獄に落ちますよ」
「しね!!」
警備員は火炎放射器で教室を燃やし尽くした。
「あひょひょー」
私は間抜けな声を出しながら息絶えた。
─時刻は深夜2時を回ったところだった。
【静寂に包まれた部屋】
今日は休日だ。
私は部屋でストローを舐めながら口の中で引き裂かれた刺身の気持ちを考えて虚しい気持に浸っていた。
「友達がいればな」
こんな時友達がいればもう少し充実した時間を過ごせるのだろうか。
すると窓から誰かが入ってきた。
「おーす元気にしてたか?」
知らない人だった。
しかも武装しているし、人の生首を持っている。
そもそも窓は施錠されているしここはタワーマンションの20階だ。
何かがおかしい。
部屋は静寂に包まれた。
が、そこから私の行動は素早かった。
部屋の電気を消すと不審者が困惑している間に緊急脱出装置で外に出てタワマンの爆破装置を起動した。
タワマンは住民とともに消滅した。
「ふーいい汗かいたな。しかし今日からホームレスか」
私は軽く絶望しつつ公園に向かった。
ちなみに部屋に入ってきた不審者の正体は、友達がいない人のところに遊びに来る善意のボランティアだったらしい。
図らずしも人の善意を踏みにじった私は、後に後悔の念から彼の跡を継ぐことになる。
【大事にしたい】
私はベテラン社員。
既に完璧になりつつある私であるが、未だ経験のない役割がある。
新人教育だ。
しかしそれもすぐに過去の話となるだろう。
明日から来る新人の教育担当は私なのである。
無論心構えも完璧だ。
高圧的な態度や言動は当然しないし、無理な仕事も与えない。暴力なんてもってのほかだし、最近話題のLGBTへの配慮も完璧にこなすつもりだ。
明日から私は教育の天才と呼ばれることだろう。私は成功を確信した。
─3日後
「やり直しだ!」
私は新人が作った企画書を破り捨てた。今日も残業フルコース確定だ。
「お前のせいでみんなが迷惑してるんだよ。死んでお詫びしろ」
私はイスを蹴飛ばした。
新人は縮こまって震えている。まったく情けない。
「ナヨナヨしてんじゃねーぞ。それでも男か」
しかし、ここで思わぬ反撃があった。新人はポケットからスマホを取り出し操作を行った。
するとさっき私が言った言葉が再生されたのだ。
録音していたのか。
新人はニヤッと笑った。
「いい加減あんたの横暴にはうんざりしてたんだよ。これを労働局に持っていけばあんたは終わりだ」
私はすかさず新人に渾身の地獄突きをくらわせ、窓から放り投げた。
あっぶねー。
大事になるところだった。
でもスマホを処分するのを忘れていたので普通にクビになった。
みんなも気をつけよう!
【喪失感】
早朝。
「こんなもん食えるか!」
がちゃーん。
ちゃぶ台に乗った美味しそうな料理はすべて台無しになった。
特に料理に不満があるわけではない。
料理を作るために他人が費やした時間を無駄にする感覚がたまらないのだ。
「やば、漏れそう」
私はしばらくのあいだ歓喜に打ち震えていたが部屋は静かなままだ。
それも当然。
この部屋には私しかいない。
自分で作った料理を自分でひっくり返しただけだ。
一段落すると私は無言で散らばった料理を片付け始めた。
そろそろ仕事の時間だ。
続きは会社でやろう。