今日は友達と街のパトロールを行っている。
これも自宅警備員の活動の一環である。
けっして親に家から追い出されたわけではない。けっして。
ちなみにパトロールとは皆さんのご想像の通りボランティア活動のことである。
この暑さの中、熱中症で倒れている人を見つけては介抱しお礼として身ぐるみ全てを頂く尊い活動である。
「今日は獲物が少ないな」
流石に連日の熱暑で出歩く人も少ない。
そこに
「お?」
フラフラしている人を発見した。
アイツにとどめを刺せば熱中症患者の出来上がりである。
私は倒れそうな人にタックルをすべく駆け出した。が。
「ぐはっ」
足がもつれ転んでしまった。
しかも下はアスファルトの道なので死ぬほど熱い。
「ぎゃああああー」
まるで熱した鉄板のようである。
さらに悪いことに今日は全身に強力な接着剤を付けているので体も起こせない。
私は焼かれ続けた。死ぬかも。
そこに
「大丈夫かー」
友達が追いついた。持つべきものは友である。
友達は言った。
「お前だけに痛い思いはさせない」
そして彼は私の隣に倒れ込んだ。
「ぎゃあああああー」
彼は絶叫した。暑さで頭がおかしくなったようだ。
この状況はまずい。
2人で死ぬしか無いのか。
私が焦っていると、通りすがりの正義マンが声をかけてきた。
「今助けますよ!」
やった。ついに助かる。
しかし正義マンは足をもつれさせ転んでしまった。
「ぎゃああああああー」
彼も全身に接着剤を付けていたので起き上がれない。
全身に火傷を負い、2人の尊い命は失われた。
友達は途中で飽きて帰っていた。
今日は浴室のリフォームを行う日だ。
せっかく高い金を払ったのだから業者どもには奴隷のように働いてもらわなくては。
「ちわーす」
来たか。私は業者がつくやいなや、さっさと作業を始めるよう命令した。
「では始めますね」
業者の男はいきなり家のテレビをゴルフクラブでぶっ壊した。
え?何これ。
しかし私が止める間もなく業者の屈強な男たちは雄叫びを上げながら家の家電を破壊し、壁に穴を開けた。あと鳥カゴに入っていた鳥も逃した。
なんか話が違うぞ。
私は止めに入ったが突如現れたストレッチマンに首を殴打され意識を失った。
─そう私は知らなかった。
実は今回のリフォームには家を半壊させるオプションが付いていたのだ。
ちなみに半壊オプションはデフォルトでチェックが入っている。
私は倒壊した柱に押しつぶされ息を引き取った。
「見積明細をよく見ていれば気づけた話なのにな」
ストレッチマンは冷めた目で瓦礫の山を見下ろした。
あと今さらどうでもいいけど浴室はちゃんときれいになった。
我が家にて。
「兄貴!ついにタイムマシンが完成したぞ」
弟が部屋に駆け込んできた。
うるさい。
「寄生虫そろそろ働けよ。親だっていつまでも元気じゃないんだぞ」
私は現実を突きつけた。
「これ、タイムマシンで荒稼ぎしたお金だよ」
弟はそう言うと札束の入ったビニール袋を放り投げた。
「お前は家族の誇りだ」
私は弟の手を取り狂喜した。
やはり頼れるのは家族だけだ。
私は弟からタイムマシンを無理矢理奪い取ると即座に過去に飛んだ。
これでこの腐ったニートライフともおさらばだ。
とりあえず20年前にもどろう。
私をバカにした親戚や同級生を1人ずつ闇討ちして、その後未来の知識で無双するのだ。
私が天才的な計画を立てていると、タイムマシンに場所指定の項目が表示された。
「座標とかよく分からんな。使いにくいもの作りやがって」
私は適当に場所を指定して過去に飛び立った。
結果。
指定した場所は製鉄所の高炉の中だった。
私は一瞬で蒸発した。
私は中堅社員。またの名をエースという。
最近新人の教育係に任命されたため、今日もビシバシと指導中である。
「先輩!ここの手順が分かりません」
早速新人からの質問が来た。
軽くいなしてやるか。
「ゴミが。こんな簡単なことも分からないとは。いいか?よく見ておけ」
私はパソコンの作業を代わった。
30分経過〜
「馬鹿な!」
事務所のあちこちから警告音がなっている。
間違えて自爆装置を作動させてしまったようだ。爆発まで5分しかない。
あと会社の機密情報を全取引先と関連会社にメールで送ってしまった。
人生のリセットボタンが欲しい。
私が頭を抱えていると部屋に誰かが入ってきて言った。
「何だこれは?」
課長とストレッチマンだ。
私は即座に新人を殴りつけて言った。
「お前は何をやっているんだ!会社に恨みでもあるのか?」
こうなったら新人に全ての責任を取ってもらおう。
「え?え?」
新人は動揺している。しかし元はと言えばコイツが全ての元凶である。
私がさらに追撃の構えを見せるとストレッチマンが止めた。
「まあ、待ちたまえここに監視カメラがある」
「あああああーーー」
私は崩れ落ちた。
終わった。
しかし課長は驚愕の事実を言った。
「実はこれはテストだったのだよ。君が想定外の問題にどう対処するかというね」
なんとそうだったのか。
「つまり私はー」
「合格だ。他人に責任を押し付けて逃げおおせる。新人はそのためにいるんだ。よく気がついたな」
「課長ー!」
私は課長に抱きついた。
この人についてきて良かった。
カチ。
その直後、自爆装置が作動し職場は吹き飛んだ。
課長がタイマーを止めるのを忘れていたらしい。
「ストレッチマンてめー」
課長の最後の言葉だった。
時刻は午後5時。会社の定時だ。
「うひょひょーい帰れるー!」
私はものすごい速さで帰ろうとしたが主任に止められた。
「待ちなさい。君は今日サービス残業をする日だよね?」
何だその日は。なんで私だけ。
私が警戒していると同僚は言った。
「お前は会社でいつも寝てばっかりだから当たり前だろ」
なんて横暴な。
後輩も言った。
「先輩は先日取引先で暴れましたよね。肩がぶつかったとか言う理由で顧客を殴り倒して。責任を取りたいって言ってましたよね」
それとこれとは話が別だ。
おっさんも言った。
「君は一度サービス残業がしたいと言ってたじゃないか」
それは飲んだ勢いで言っただけで。
変質者も言った。
「昨日、サービス残業をしますって誓約書書いたよね。土下座までして、受け取ってくれないと暴れるってゴネたよね?」
昨日の私どうした。
「ともかくさいならー」
私は全員を振り切って帰宅しようとした。
しかし途中で捕まり会社の地下にある強制労働施設で死ぬほど働かされた。
出所後〜
「今日もサービスサービス(笑)」
私は365日サービス残業をする体にされてしまった。