風花

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9/24/2023, 10:57:22 AM

『ほんとの形』


これだ!と思ったその形は
いとも簡単に崩れていった

誰もが知っているあの動物に
ほんとの形なんてないのかもしれない

例えば三角お耳のしなやかな毛玉
猫という生き物には形がある
そう、確かにある。

だけど小さな箱のなかに、瓶のなかに
ぴったりと液体のように溶けるのだ

さっきまであった形は
とうに無くなっていて
また別の形になっている。

形自体はあっても
「ほんとの形」なんて在りはしない
きっと、そうなんだと思う。

9/23/2023, 12:18:15 PM

『僕の城』

僕の城は
縦と横に向いただけの金属の棒
それが組合わさって
大きな城になっている

僕の城は
近所の公園の隅っこにある
足場にされがちな横棒は
塗料が剥げて錆びている

僕の城は
いつも沢山の子供達を受け入れている
どんな人にも開放された
時代に合った素敵な城なのだ

僕の城は
ジャングルジムと呼ばれている
そんな城に僕はてっぺんまで登る
僕が王様だからだ

僕の城は
子供達と、滑り台と、砂場と、ブランコと…
沢山のものがみえる
だけどその景色が
また少し、また少しと小さく見えるんだ

高いと思っていた僕の城は
年月を重ねれば低く思えてきて物足りない


だから僕はそろそろジャングルジムを降りるんだ

そしてまた誰かが王様。

8/24/2023, 1:59:35 AM

『泡』

海からポコっと産まれたよ
白くて可愛い小さな泡が
一つ産まれて、二つ産まれて
たくさん、たくさん産まれたよ

大きな泡を慕うように
小さな泡たちが周りを囲んで
ザブンザブンと揺れる波間に
静かに漂う小さな膨らみ

海の青さをちょっぴり白く染めている
可愛い可愛い泡たちは
静かにポンっと弾けて
また海へ還ってゆくんだ


7/18/2023, 3:05:25 AM

『母の手』

それは暖かかった。
がさがさとしていて、
指はあかぎれだらけだった。
それでも母の手は暖かかった。
大きな母の手に小さな僕の手が包まれたとき。
それが僕の幸せな記憶。
遠い日の記憶。

それは冷たかった。
しわしわになっていて、
固くなった皮膚。
骨の形がよくわかる、
生気の無い母の手。
いつの間にか母より大きくなった僕の手で、
母の手を握ったとき
ふと遠い日の記憶が頭を掠めた。

6/18/2023, 8:35:24 AM

『未来哲学』

まだ来ぬ時を嘆くものがいる
現状から予想し得ることは
どれも不幸なことばかりだからだ

まだ来ぬ時を心待ちにしているものがいる
現状から予想し得ることは
どれも今とは違う世界が広がっていると
信じているからだ

まだ来ぬ時というものは
全て人間の産み出した世界である
十年後の未来はどうしてるかなんて
想像でしかみることはできず
実際に十年経ったら、未来ではなく今になるのだ

その想像の世界が人を生かしも殺しもする
人間が産み出したはずなのに
人間は未来という概念が操るカラクリ人形となる

未来のために努力したり
未来を嘆いて死んだり
未来に喜んだり
未来を恐れたり

まだ来てさえいないのに
人は未来に振り回されて生きている









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