「捨てた」
今日、私は捨てました。
小学生の頃に描いた絵も、
今日、私は捨てました。
中学生の頃の成績表も、
今日、私は捨てました。
高校生の頃の卒アルも、
今日、私は捨てました。
大学生の頃の恋人との写真も、
今日、私は捨てました。
会社員の頃の名刺も、
今日、私は捨てました。
全部全部捨てました。
自分の過去を捨てました。
永遠なんてないけれど
そんな言葉を聞くけれど
本当に本当に、
自分の過去がなくなったことにはならないけど
これで
私の過去を記すものは永遠になくなってしまったのです。
『真っ黒な靴紐』
足が重くなって
ふと足元をみると真っ黒な靴紐が
僕の足をぐるぐるまきにしていた。
生まれてきてからずっと歩き続ける中で、
知らない間に靴紐は黒く染まって僕に絡まって
歩けなくしていた。
真っ黒な靴紐は
やがて僕の足から上に上に絡まっていって
僕を蝕んでいった。
ハサミを出して
真っ黒な靴紐を切ろうと思ったけど
靴紐からは赤色の液体が滲むだけだった。
靴紐は切れなかった。
靴紐は悲鳴をあげていた。
靴紐は泣いていた。
靴紐は、靴紐は、靴紐は……、
…僕とずっと一緒だった。
ああ、そうか。
僕は
丁寧に靴紐をほどいて結びなおして
また歩き出す。
また絡まってほどけても
結びなおして歩き出す。
真っ黒な靴紐は僕を苦しめるけど
靴紐がなければ歩けなくなる。
絶対に断ち切れない黒いものがあるから今の僕がいる。
だから
僕は心の傷と一緒に歩いていくしかないんだ。
『月日』
絵が上手だねって褒められた
かけっこで一番になった
テストで百点を取った
僕は凄いやつなんだと思った
このまま凄い大人になれると思った
はやく大人になりたかった
自分より絵が上手い人がいた
かけっこで世界を目指す奴がいた
テストで満点なんて取れなくなった
自分より上が沢山いた。
もしもこのまま大人になったら、
僕の優れてるところなんて
何一つ無くなってしまう。
だから時間よ、
止まれ。止まれ。止まれ。
これ以上失わないように。
止まれ。止まれ。止まれ。
『時はピンクと青の狭間』
よくわからないの
貴方の言っている言葉
一緒に過ごした日々が全て嘘で
貴方が本当に愛していたのは私じゃなくて…
どうしてと訊いても
曖昧な台詞が吐き出されるだけ
私そんな
空っぽの言葉を聞きたかったわけじゃないわ
ピンクと青の混ざった
夕の空
その下に黒のシルエット
私と彼
夕焼けチャイムにかき消されて
貴方の声がよく聞こえないの
だから別れようだなんて私の聞き間違え
そう思いたかった
『街が消えた日』
どかーん、と
爆発一つ、二つ、三つ…
真っ暗闇の空から光の雨が降り注ぐ
それが家や地面にぶつかって
どかーん、と
爆発一つ、二つ、三つ…
昨日まで確かにあった
僕の家も
学校も
人も
街も
ぜんぶ、ぜんぶ
どかーん、と
爆発一つ、二つ、三つ
簡単に吹き飛んで消えていった
僕らの3月10日東京
失われた日常
僕らの3月9日東京