風花

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『真っ黒な靴紐』

足が重くなって
ふと足元をみると真っ黒な靴紐が
僕の足をぐるぐるまきにしていた。

生まれてきてからずっと歩き続ける中で、
知らない間に靴紐は黒く染まって僕に絡まって
歩けなくしていた。

真っ黒な靴紐は
やがて僕の足から上に上に絡まっていって
僕を蝕んでいった。

ハサミを出して
真っ黒な靴紐を切ろうと思ったけど
靴紐からは赤色の液体が滲むだけだった。


靴紐は切れなかった。
靴紐は悲鳴をあげていた。
靴紐は泣いていた。
靴紐は、靴紐は、靴紐は……、 

…僕とずっと一緒だった。


ああ、そうか。


僕は
丁寧に靴紐をほどいて結びなおして
また歩き出す。

また絡まってほどけても
結びなおして歩き出す。

真っ黒な靴紐は僕を苦しめるけど
靴紐がなければ歩けなくなる。

絶対に断ち切れない黒いものがあるから今の僕がいる。


だから
僕は心の傷と一緒に歩いていくしかないんだ。



9/17/2025, 5:05:57 PM