『ホントノハナシ』
僕は衣替えをしません
おかしいと思うでしょう
衣替えをしないなんてへんでしょう
いい加減変えろと
暑さや寒さで死んでしまうぞと
何度も何度も家族は季節の変わり目に言いました
おかしいと思うでしょう
なぜ変えないのだと思ったでしょう
だけどもう
自分自身どうでも良くなったんです
暑さや寒さを感じてるときが
唯一生きてると感じるから
自分の体をぞんざいに扱っているとわかっていても
唯一生きてると感じるから
ただそれだけなんです
『ココロのケンコウ』
きょーもわたしは げんきです
はーとは どくどくうごいてます
にこにこ えがおいつもどーり
こころは けんこー
まいにち けんこー
だけどあるとき音がした
パラパラパララ
グチャグチャ
ピッ
あれあれ あれれ
変な音
どこかで鳴ってる変な音
はーとの音とは違ってる
不思議な音が響いてる
はーとのどくどく 煩くなって
おめめがお水でいっぱいだ
心チクチク
苦しいの
ねえ。
私
どうしちゃったの…
『案山子の夏』
金色の太陽が山に沈んでゆく
昼間の鮮やかな緑の水田も
今はなんとなく物悲しい色になっている
赤い空にイタズラからす
みんな山に帰っていく
目の前では男の子が走ってる
遠くでポツリポツリと光がみえて
きっとどれかがその子の家
「日が沈む前に帰らなきゃ。」
暗くなってゆく畦道を
少年は走りつづける
イタズラからすは帰っていく。
少年も帰っていく。
だけど僕だけ帰れない
田んぼの真ん中で
両手を広げて立っているだけ
僕の頭の上でいつのか分からない麦わら帽子が
カサカサと風で音を立てている
僕と麦わら帽子。
二人きりの夜はもうすぐだ
『猫』
冷たいコンクリートのビルの隙間
ネオンの光も幽かに差すだけの誰も知らない隙間
その隙間から闇色を纏った一匹の見窄らしい猫が
美しすぎる金色の瞳に疲れ切った都会を映している
猫は光の中に飛び込むわけでもなく
ただ暗がりから街を見つめ
やがて暗闇に吸い込まれていく。
かつて我が物顔で歩いていた気高く美しい猫達は
ネオンに夜を奪われた。
彼らは光も差さない物陰で
街の明かりが消える日を待っている。
『光』
閉じたカーテンの隙間から
漏れ出した光をそっと覗いてみる
おんなじ服着た少年少女が
私の知らないお話を
沢山、沢山話してる。
苦しくなって、涙を堪えて
惨めにベッドに潜る日々。
制服も、青春も、
私のものだけが埃を被ってて。
いつか、あの中に入れたら。
窓越しに見えるのは、私の憧れ。