上手くいかなくたっていい
上手くいかなくたっていい。
私は私の思うままに生きるから。
もしかしたら不器用に見える生き方かもしれないけれど、それでも私自身は納得しているんだ。
効率的に、合理的に。
それはそれで正しいのかもしれない。
でも、私は私の心の思うままに、まるで獲物が目の前にいる野生の狼のように、本能的に動いて、衝動に抗わず、ただ貪り尽くしたいのだ。
蝶よ花よ
その花は大事に育てられた。
とても綺麗で、誰もが目を止めた。
その蝶は大事に育てられた。
とても華やかで、誰もが目で追った。
綺麗な花に、艶やかな蝶がそっと止まる。
捕えることさえ、恐れ多くてできない。
誰があの花を手折るのだろう。
誰があの蝶を捕まえるのだろう。
きっと、それは自分ではないことだけは確かだ。
最初から決まっていた
最初から決まっていた。
一目惚れなんてしたことがない僕だったけれど、君を一目見た時から『ああ、これが恋なんだ』と心で感じた。
頭で理解したんじゃない。
あれは心だ。
今までは人を好きになることにピンときていなかったのだけれども、僕は彼女の横顔に恋をした。
風で髪の毛が靡いたのを見て恋をした。
友達に向けた笑顔に恋をした。
鈴のような軽やかな声に恋をした。
もう何もかも恋をした。
まるで恋に落ちることが運命だと、最初から決まっていたかのように。
太陽
コミュニケーションが苦手な僕に取って、彼女の存在は異質だった。
最初はいきなり話しかけられて戸惑った。
なんて話を合わせたらいいかも分からなかった。
うまく話すことが出来ない僕に、何度も話しかけてきた。どうせ何かの罰ゲームとかなんだろうとも疑った。
彼女は大学の校内で僕を見つけるたびに、声をかけてきた。他愛のない話をして、僕は一歩的に話しかけられるだけだった。彼女は僕のそんな反応を見ても笑顔を絶やさなかった。
時が経って、少しずつ僕は彼女に対しての認識が変わってきた。
ゼミではよく隣になった。彼女の方から毎回隣の席に座ってきたけれど、僕の講義のノートを見て「字が綺麗だね」と言ってくれた。
また僕が学食で本を読んでいると、彼女が来て「その本面白い?」と聞いてくれた。
僕は短く「うん」と返事をした。
そうすると彼女は次の日、同じ本を買ってきていた。
僕が勧めてくれたから。
その理由だけで、僕の顔は熱くなった。
本当は話しかけられたことが嬉しかったのかもしれない。かなり強引に僕のテリトリーに入ってきたけれど、今はその違和感は無い。
ある日、大学のカフェテラスで、パソコン作業をしていた僕は、彼女が隣に来ていることを知らなかった。
10分くらい前からいたらしい。
集中しすぎて気付かなかった。
「私は君の作品が好きなんだ」
と言った。
趣味で執筆活動をしている僕は、創作小説のゼミで教授に認められて、作品を公開していたことを思い出した。
「すごく感動した。月並みな感想だけれども」
彼女の瞳が真っ直ぐに僕を射抜く。
「私にとって、君のその文才は太陽みたいに、温かくてホッとする感じなんだ」と。
こんなちっぽけな僕が、誰かの心に何かを残せたことに、思わず涙がこぼれそうになった。
その一言で、僕にとっても君は太陽なのかもしれない。
鐘の音
厳かな教会の庭。
そこから鐘の音が聞こえる。
明日は……、明日はいよいよ結婚式だ。
名字が変わるというのは、どことなく嬉しいような、
でもどこか淋しい。
明日の今頃は周りに祝福されて、賑やかな風景になっているのだろう。
今はこの陽が沈む色合いが切なくて、少しだけ感傷にひたっていたい。