REINA

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8/6/2024, 1:15:30 PM

太陽



コミュニケーションが苦手な僕に取って、彼女の存在は異質だった。
最初はいきなり話しかけられて戸惑った。
なんて話を合わせたらいいかも分からなかった。

うまく話すことが出来ない僕に、何度も話しかけてきた。どうせ何かの罰ゲームとかなんだろうとも疑った。

彼女は大学の校内で僕を見つけるたびに、声をかけてきた。他愛のない話をして、僕は一歩的に話しかけられるだけだった。彼女は僕のそんな反応を見ても笑顔を絶やさなかった。

時が経って、少しずつ僕は彼女に対しての認識が変わってきた。
ゼミではよく隣になった。彼女の方から毎回隣の席に座ってきたけれど、僕の講義のノートを見て「字が綺麗だね」と言ってくれた。

また僕が学食で本を読んでいると、彼女が来て「その本面白い?」と聞いてくれた。
僕は短く「うん」と返事をした。
そうすると彼女は次の日、同じ本を買ってきていた。

僕が勧めてくれたから。
その理由だけで、僕の顔は熱くなった。

本当は話しかけられたことが嬉しかったのかもしれない。かなり強引に僕のテリトリーに入ってきたけれど、今はその違和感は無い。

ある日、大学のカフェテラスで、パソコン作業をしていた僕は、彼女が隣に来ていることを知らなかった。
10分くらい前からいたらしい。
集中しすぎて気付かなかった。

「私は君の作品が好きなんだ」
と言った。

趣味で執筆活動をしている僕は、創作小説のゼミで教授に認められて、作品を公開していたことを思い出した。

「すごく感動した。月並みな感想だけれども」
彼女の瞳が真っ直ぐに僕を射抜く。

「私にとって、君のその文才は太陽みたいに、温かくてホッとする感じなんだ」と。

こんなちっぽけな僕が、誰かの心に何かを残せたことに、思わず涙がこぼれそうになった。

その一言で、僕にとっても君は太陽なのかもしれない。

8/5/2024, 12:29:08 PM

鐘の音



厳かな教会の庭。
そこから鐘の音が聞こえる。


明日は……、明日はいよいよ結婚式だ。
名字が変わるというのは、どことなく嬉しいような、
でもどこか淋しい。

明日の今頃は周りに祝福されて、賑やかな風景になっているのだろう。

今はこの陽が沈む色合いが切なくて、少しだけ感傷にひたっていたい。

8/4/2024, 11:27:56 AM

つまらないことでも



例えば、それが他人から見てつまらないことでも、
あなたとのかけがえのない経験は、私の中では大切な宝物だ。

8/2/2024, 1:00:44 PM

病室


海が好き。
小さな頃から。

学生時代は彼にねだって、よく海に連れて行ってもらった。
逢えなくて淋しい時も、海を眺めた。

海が見える式場で愛を誓った。
海好きな私に彼がマリンウェディングを提案してくれたのが、嬉しかった。

その後、仕事や家庭でバタバタした生活を送りながらも、休みの日には家族で海に行った。
息子と娘も海が好きになった。

夫が頑張って別荘をプレゼントしてくれた。
学生の頃に『将来は海の近くに住みたい』と言ったことを覚えていてくれた。




いい人生だったと思う。


病室の窓からは海が見える。
青く広がる空と海。ネモフィラが咲き乱れ、幻想的な光景だ。

どうせなら海が見えるところでと、夫がその病院を探してくれた。

今日はうだるような暑さになるだろう。
初めて恋をしたあの暑い日のことを思い出しながら。
あなたと一緒に歩いた海辺の思い出も。

8/1/2024, 12:54:33 PM

明日、もし晴れたら



明日、もし晴れたら君と一緒に遊園地にでも出かけよう。
明日、もし雨なら君と一緒に自宅で映画でも観よう。

晴れでも、曇りでも、雨でも、どんな天気でも、
君と一緒にいるのは楽しい。

君に会えることが嬉しい。
そう、会うたびに君に何度でも恋をする。

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