大事な人と、過ごした時間。
それはそれは幸せで、楽しくて。しかもそれが長く続いてしまったせいで、この時間が永遠に続くと、勘違いしていた。
大事な人と、喧嘩した時間。
大事な人だからこそ、強く言っても大丈夫だって、信頼してた。喧嘩しても、仲直りできるんだって、そう信じてた。
大事な人と、離れた時間。
なぜか私は、謝れば済むと思っていた。大事な人の優しさに、甘えていた。
大事な人を、手放した時間。
あの時の幸せが、嘘のようになくなってしまって、私は今も、あの時の幸せを夢見ている。もう、会うこともできないのに。
あなたがいなくなってから、毎日が楽しくなくて、幸せも感じられなくて、何をしてても、物足りない。
もう会えないあなたに甘えすぎた自分を戒めて、あなたにずっと謝りたくて、後悔ばかりが残っている。
あなたを手放した時間は、きっと、いつまでも後悔しているだろう。ずっと、苦しいのだろう。
僕らの歩く、「人生」というものは、目の前にある選択肢の中から一つ選ぶと、「未来」という先に進める。
どの選択肢を選ぶと、どんな未来が待っているのか、それは、RPGみたいにわからないものだ。
かと言って、どれかを選択したら、もうリセットもロードもできない。
僕らは、先の見えない人生を歩んでいる。
見えない未来へ、歩み続けている。
たとえその未来が、最悪でも、最高でも、普通でも。
僕らは、その道を歩み続けているんだ。
強い風が、僕らの間を吹き抜ける。
「うぅ…寒い…」
「そうだねぇ…」
君の呟きと、急に変わってしまった周りの景色に、少し寂しさを覚える。
「寒いなら、僕の手袋使う?」
「え、そっちが寒くなっちゃうじゃんか」
「全然大丈夫だよ。そんなに凍えるほどの寒さじゃないしさ」
ちなみに嘘だ。普通に寒い。けれど、大切な人の体が冷えるよりも、自分が少し冷えておいて、後でこっそりあったまっておけばいい。それがいい。
「じゃあ…ごめんね?」
そう言って、少し緩い手袋をはめた君は、「あったかい」とぼそりとつぶやいて、微笑んだ。
この笑顔が見れるなら、どんな苦痛だって受けられる。そう思える。
また、少し強い風が吹き抜けた。流石に裸のままの手では寒い。ポケットに手を入れると、寒いことがバレてしまう。だから、バレないように、こっそり手を強く握る。
ちらりと君の方を見ると、訝しげにこちらを見ていた。
「どうしたの?そんな目して」
「…バカだねほんと」
どうやら、本当は寒いことがバレてたみたいだ。でも、指摘してこないのは、僕がカッコつけてることをわかってくれてるんだろう。気が利きすぎている。
「何が何だかわからないや」
そう笑いながら言うと、べしっと、僕の腕を叩く君。
痛くも痒くもない攻撃に笑うと、君はそっぽを向いて「ありがと」と、小さな声で呟いてた。
こういうところも、愛おしいんだ。
僕らの間を、強い、冷たい風が吹き抜けた。
「…やっぱ寒い」
そう呟く君。
「そうだねぇ…」
微笑みながら同意する僕。
寒い冬は、僕らの心を温かくしてくれていた。
最低気温は0℃。
氷点下に行かないことが救いだ。
しかし、あたりの木々は、まだ紅葉していて、落ちていかない。
木々も混乱しているだろう。秋がなくなってしまったことに。
暑い暑いと、嘆く我々を置いていき、気温は下がった。
今日は、雪が降るらしい。
ついこの間まで、夏だったのに。もう気づいたら、冬支度が進んでいる。
店には、「冬はこれで!」と、うるさいくらいデカく書かれたポップと共に、カイロや防寒具が置かれている。
そこにいたのは、冷感シートや冷感タオルだったのに。
消えてしまった秋に、少し寂しさを覚えながら、ポケットに手を突っ込んで早足で歩く。
冬へ、歩き出す。
今夜は暗い夜。
月が雲に隠れている。
君を照らす月明かりは、何よりも綺麗で、神秘的で、この世のものではないものかと感じた。
お月様が見守ってくれていたあの頃は、全てが輝いて見えた。
でも。
君がいなくなってしまって、どこにも見つからない。
それと共に、月も隠れて見えなくなってしまった。
どこに行ってしまったのだろう。
あんなに輝いていた君も、月も、今は跡形もなく消え去ってしまった。
僕の心を照らしてくれた、美しい輝きは
今はもういない
この真っ暗な夜のように
僕の心は暗い