強い風が、僕らの間を吹き抜ける。
「うぅ…寒い…」
「そうだねぇ…」
君の呟きと、急に変わってしまった周りの景色に、少し寂しさを覚える。
「寒いなら、僕の手袋使う?」
「え、そっちが寒くなっちゃうじゃんか」
「全然大丈夫だよ。そんなに凍えるほどの寒さじゃないしさ」
ちなみに嘘だ。普通に寒い。けれど、大切な人の体が冷えるよりも、自分が少し冷えておいて、後でこっそりあったまっておけばいい。それがいい。
「じゃあ…ごめんね?」
そう言って、少し緩い手袋をはめた君は、「あったかい」とぼそりとつぶやいて、微笑んだ。
この笑顔が見れるなら、どんな苦痛だって受けられる。そう思える。
また、少し強い風が吹き抜けた。流石に裸のままの手では寒い。ポケットに手を入れると、寒いことがバレてしまう。だから、バレないように、こっそり手を強く握る。
ちらりと君の方を見ると、訝しげにこちらを見ていた。
「どうしたの?そんな目して」
「…バカだねほんと」
どうやら、本当は寒いことがバレてたみたいだ。でも、指摘してこないのは、僕がカッコつけてることをわかってくれてるんだろう。気が利きすぎている。
「何が何だかわからないや」
そう笑いながら言うと、べしっと、僕の腕を叩く君。
痛くも痒くもない攻撃に笑うと、君はそっぽを向いて「ありがと」と、小さな声で呟いてた。
こういうところも、愛おしいんだ。
僕らの間を、強い、冷たい風が吹き抜けた。
「…やっぱ寒い」
そう呟く君。
「そうだねぇ…」
微笑みながら同意する僕。
寒い冬は、僕らの心を温かくしてくれていた。
11/19/2025, 1:19:04 PM