強い風が、僕らの間を吹き抜ける。
「うぅ…寒い…」
「そうだねぇ…」
君の呟きと、急に変わってしまった周りの景色に、少し寂しさを覚える。
「寒いなら、僕の手袋使う?」
「え、そっちが寒くなっちゃうじゃんか」
「全然大丈夫だよ。そんなに凍えるほどの寒さじゃないしさ」
ちなみに嘘だ。普通に寒い。けれど、大切な人の体が冷えるよりも、自分が少し冷えておいて、後でこっそりあったまっておけばいい。それがいい。
「じゃあ…ごめんね?」
そう言って、少し緩い手袋をはめた君は、「あったかい」とぼそりとつぶやいて、微笑んだ。
この笑顔が見れるなら、どんな苦痛だって受けられる。そう思える。
また、少し強い風が吹き抜けた。流石に裸のままの手では寒い。ポケットに手を入れると、寒いことがバレてしまう。だから、バレないように、こっそり手を強く握る。
ちらりと君の方を見ると、訝しげにこちらを見ていた。
「どうしたの?そんな目して」
「…バカだねほんと」
どうやら、本当は寒いことがバレてたみたいだ。でも、指摘してこないのは、僕がカッコつけてることをわかってくれてるんだろう。気が利きすぎている。
「何が何だかわからないや」
そう笑いながら言うと、べしっと、僕の腕を叩く君。
痛くも痒くもない攻撃に笑うと、君はそっぽを向いて「ありがと」と、小さな声で呟いてた。
こういうところも、愛おしいんだ。
僕らの間を、強い、冷たい風が吹き抜けた。
「…やっぱ寒い」
そう呟く君。
「そうだねぇ…」
微笑みながら同意する僕。
寒い冬は、僕らの心を温かくしてくれていた。
最低気温は0℃。
氷点下に行かないことが救いだ。
しかし、あたりの木々は、まだ紅葉していて、落ちていかない。
木々も混乱しているだろう。秋がなくなってしまったことに。
暑い暑いと、嘆く我々を置いていき、気温は下がった。
今日は、雪が降るらしい。
ついこの間まで、夏だったのに。もう気づいたら、冬支度が進んでいる。
店には、「冬はこれで!」と、うるさいくらいデカく書かれたポップと共に、カイロや防寒具が置かれている。
そこにいたのは、冷感シートや冷感タオルだったのに。
消えてしまった秋に、少し寂しさを覚えながら、ポケットに手を突っ込んで早足で歩く。
冬へ、歩き出す。
今夜は暗い夜。
月が雲に隠れている。
君を照らす月明かりは、何よりも綺麗で、神秘的で、この世のものではないものかと感じた。
お月様が見守ってくれていたあの頃は、全てが輝いて見えた。
でも。
君がいなくなってしまって、どこにも見つからない。
それと共に、月も隠れて見えなくなってしまった。
どこに行ってしまったのだろう。
あんなに輝いていた君も、月も、今は跡形もなく消え去ってしまった。
僕の心を照らしてくれた、美しい輝きは
今はもういない
この真っ暗な夜のように
僕の心は暗い
人々は祈る
欲しいものがもらえますように
テストでいい点が取れますように
合格してますように
生きてますように
いい返事がもらえますように
それらの祈りは、誰に届いているのだろうか
いるのかもわからない神だろうか
それとも、すぐそばにいる、運命ってやつだろうか
はたまた、奇跡というのを信じているのだろうか
結局、祈った先には、何があるのだろうか
「結末」は、皆に等しく降りかかる
その「結末」は、今までの自分の過程によって決まるのではないのだろうか
テストでも、プレゼントでも、受験でも
自分の行い、日々の勉強、生活習慣、年齢
自分の行いが、「結末」を決めるのだろう
では、祈りの果てには、何があるのか。誰がいるのか。
祈って祈って、祈りに祈った「結末」には、神も、運命も、奇跡もいなくて、自分しかいないのではないのか
そう思いながらも、「結末」がいいものになるように、祈っている。その対象が、神なのか、運命なのか、奇跡なのか、自分でもわからないまま。
ねぇ、これから何がしたいの?
何をしていきたいの?
今、どんな気持ちなの?
何に困っているの?
そう、自分に問いかけても、黒い霧みたいな胸のモヤモヤに消えていくだけ。
自分の心は、この霧の奥にいるはずなのに、返事もないし、そこにほんとにいるのかもわからなくなってくる。
僕の心を探そうとして、霧の奥に進んで行っても、迷路みたいに入り組んでて、どこに心があるのか見当もつかない。
ねぇ、僕の心。
もう、未来を決めるんだよ。
大学?就職?どんな分野?
これからの僕の人生に関わる、大事なことだよ?
なんで、返事をしてくれないの?
もう、どうすればいいのかわからない。
僕は、心の迷路にひとり迷ったまま、うずくまって、泣いている。
自分を見失い、一人で泣いている姿を見て、自分の弱さや愚かさに、また、打ちひしがれるんだ。