別れの言葉は、何もなかった
さよならとか、幸せになれよとか、少しくらい言うと思っていたけど
何も、言わなかった
そのせいで、君の最後の言葉は、「お前さえいなければ」になった
君は最後に、私の心を重い鎖で縛りつけたんだよ
君は私を愛してくれない
わかってる
いや、わかっていた
でも、君が優しくしてくれる時、
はじめて、君の愛を感じた
ほんとに小さな、蟻ほどの愛
その愛が、病みつきになった
その愛をくれる時、あなたの視界には、私だけがいる
快感だった
でも、そんなちっぽけな愛だと、足りなくなった
だから、君が、本当に私だけを視界に収めてくれるように
あなたを殺した
どこにも行かずに、ずうっと私だけをみていて欲しい
大好きなあなたが、私だけをみている
それを感じると、「あぁ、生きてるな」って、思える
なんで?
私はあなただけを愛してるよ?
あなたは、私だけじゃないの?
おかしくない?
ずっとずっと、私をみていてよ
私だけを、見つめていてよ
私が生きられるのは、あなたにみられていると、思える時だけ
小学生の頃、君よりも僕が優れていた
テストの点数も、運動神経も、ひらめき力も、応用力も、何もかも
君は僕のことを、尊敬と憧れのこもった目で見てきて、心底気持ちよかったのを覚えている
中学生に上がると、少し差は縮まってきていたが、まだ僕の方が上だった
君はよく、絶対に追いつく、と宣言してきた
できるものならやってみなよ、と言ってあしらっていた
高校、僕は難関校に進学したが、君もついてきた
合格ラインギリギリだったらしい
僕は上位10位以内には入っていたと思う
まだまだだなと、たかを括っていた
高校二年生の、中期考査
初めてテストの点数で負けた
はじめて、君に見下ろされた
君は大喜びだったが、僕の中で、黒い何かが生まれたのはその時だった
結局そこから、少しづつではあるが、差をつけられ、大学のレベルも離れてしまった
もちろん、君が上の大学だ
君は、卒業式の日、僕にお礼を言った
君が言うには、僕が優秀で、君を超えるという目標があったから、ここまで来れたらしい
僕にはその言葉が、「僕が君の踏み台」と言っているように聞こえたのだ
僕は無視して君の前から去った
あれから何年も経ち、僕らは大人になった
君は、テレビに引っ張りだこのイケメン凄腕医者になっていた
僕は、まぁまぁな会社に入って、普通の生活を送っている
どこで間違えたのか、僕には理解ができない
今は昔とは逆で、僕が君の背中を追っている
追いつかないと、わかっていながら
梅雨の中でも、強い雨が降ったあの日
君は僕を、近くの公園に呼び出した
傘を刺して、君を待っていると
君は傘も刺さずに、やってきた
急いで駆け寄って、傘に入れてあげようとして、僕の上着を貸してあげようとして、近づいたけど
君は、顔を上げて、一言
「終わりにしよう」
あの時の君の顔は、雨でずぶ濡れで、雨の伝った跡なのか、はたまた、君の涙の跡なのか
僕にはわからなかった
君の言葉を聞いた直後から、雨の香りが、強くなった気がする
それは多分、君もそうだったんじゃないかなと思う
だって、君は僕よりも、ずっと優しい人だったから