ー飛べない翼ー
飛ぼうと思えば、いつだって飛べた。
私にはいろんな 羽『可能性』が見えてて、そこから 翼『未来』に重なっていった。
もう羽が生え揃っているから、いつだって飛べた。
でも飛ばない。
怖いから、恐ろしいから。
本当は、その羽は皆はずっと前から揃っていることに気づきたくないから。
皆はずっと先にいることに気づきたくないから。
偽物の優越感に浸っていたいから。
自分の羽はおかしい形と色であることに気付かれたくないから。
自分が悪目立ちしたくないから。
でもその後に気付いた。
私は皆と同じ羽も翼も持っていないことに。
皆はもっと色とりどりな翼を揃えていたことに。
自分は同じ枝にすら停めれていなかったことに。
皆自分のことなど眼中に無いことに。
だから分かった。
飛べない翼だったって、誰も気に止めないことに。
その事実に救われた自分がいたことに。
ー意味がないことー
『意味ないよ、そんなこと。』
うるさい
『どうせ出来ないでしょ?』
うるさい
『無駄ってわからない?』
うるさいうるさいうるさいうるさい。
わかってる。無能な自分は結局なにも出来ないこと
人を助けようとしても、中途半端な助け船しか出せないこと。どんなに頑張っても、無才の私は平均以上になれないこと。
わかってる。人一人救えたってただの自己満足で世界は何も変わらないこと。結局は自分の望むようにはならないこと。
わかってる。平均以上になれないことも自分一人の人生は無意味なことも。
わかってる。だから悔しいんだ。
特別になりたい。一番になりたい。もっと人の注目を集めたい。世界をねじ曲げてやりたい。知らない世界を見つけて、見せつけてやりたい。
私の努力を意味がないことだと貶した奴等を、無駄な人生しか過ごせない奴等を、
見下して突き落として引きずり下ろしてやりたい。
でもわかっているんだ。そんな気持ちがあったって世界は変則もなく回るし、世界は急に暑くなって寒くなるし、世界は才能のために回っている。
悔しいけれどわかっているんだ。全て
ー意味がないことー
ー一筋の光ー
その光は思ったより近くにあった。
四方八方にあったはずの光の筋道は、私の無能さによって一筋に変わってしまったのだから。
頭は悪いし、運動も出来ないし、リーダーシップもないし、語彙力もないし音楽センスもないし絵もうまくないし工作も出来ないし流行りにも乗れない。
沢山私に注いでいたはずの光は、人生を歩むに連れ遠ざかって、まるで長い長い階段からスローモーションで落ちているような感覚に陥る。
どこで転んだのかは分からないけど、確かに落ちていっていた。
残されたけど、確かに見えた 一つの才能 『一筋の光』さえ、何の才能か分からないほど落ちてしまった。
一筋の光は思ったより近くにあった。
だけど届くことはない。
その光が何か分かるまで、誰かの手『一筋の光』が伸びてくれるまで
ー哀愁を誘うー
やってしまった。直感的にそう感じた。
イケメンでいろんな人から好かれている学校1の彼に今日、告白された。
二つ返事でOKした。
嬉しかった。そして悲しかった。
自分がいずれ別れを言い出されると分かってしまったから。
だって、あの子がいた。
私の後ろにあの子がいた。
冴えない眼鏡のあの子がいた。
漫画みたいな目を持ったあの子がいた。
ヒロインみたいなあの子がいた。
漫画のヒロインみたいに、眼鏡をはずすと超美人でヒロイン特有の笑顔を持っている。
昔友達だったから知っているの。
あの子はヒロインなんだって、私はあの子の引き立て役だって。
ほら、あの哀愁を誘う背中が、後でモテるタイプのヒロインだって伝えてる。
ー鏡の中の自分ー
現実の鏡には、相変わらずおしゃれのおの字もない本の少しだけいい気がする顔が写る。
鏡は本当の自分を写すもの。
加工一つも乗っていない。
でもそれは違う。鏡の中の私はうんともすんとも言わないのだから。
写るのはただの無愛想な顔。
そこから連想される性格は、声は、鏡から出ることはない。
鏡の中にもし別の世界があるのだとしたら。
私はそこに逃げ込みたい。
喋らなくていいから。
突発的に、変なことを口走らなくてすむから。
自分の理想を崩さずにすむから。
…嫌いなあの子の本性を聞かずに、表面上のあの子だけを可愛いと思えるから
ーああ、鏡の中の無口な自分が羨ましいー