形の無いもの
手を伸ばして、何かを掴む。しかし、掴んだ手を開いてみても何も無い。
もう一度同じように掴んでみたが、結果は同じだった。
空気を掴もうとしても、掴むことはできない。形がありそうで、ないモノ。
どんなに頑張っても掴めない。形の無いものは、掴むことができない。
空気にするりと交わされている気分。
「こっちだよー」
そんな声が聞こえた気がして、掴もうとするが、またダメだ。
「つかまえることができないね、残念だー」
完全にからかわれている。少しムッとしたが、掴むことができないのならば、諦めるしか無い。
「また遊んでね」
そう耳元で言われた。
やれやれと肩をすくめて、また相手してあげようと心の中で誓う。
いつかは、形の無いものを掴んでみたい。そんな好奇心――
ジャングルジム
ジャングルジムの一番上まで登って、遠くの景色を見るのが好きだった。
普段とは違う目線。子供ながら新鮮な感じがした。
風が吹くと心地がいい。これも結構好きだった。
丸見えだけど、秘密基地っぽい感じ。一番上にいるのが良い。
友達と遊ぶ時は様々な遊びを考えたりして、どの遊びも楽しかった。
大人になってから、ジャングルジムに登らなくなった。それは、大人になったからだろうか?
公園自体に足を運ばなくなった。これも大人になったからだろうか?
大人になったからこそ、ジャングルジムの上まで登って、遠くの景色を見るべきだと思う。
普段とは違う目線が、大人になればもっと違うく見えるかもしれないし、懐かしく思うかもしれない――
声が聞こえる
目を瞑ると今でも思い出す。
楽しかったあの頃。放課後、一緒に帰って寄り道をした。
休日は観たかった映画を二人で観て、感動していた。
夏祭りの時は花火を静かに見て、クリスマスの時はプレゼントをお互いに交換した。
どんな時でも一緒。泣いたり、怒ったり、笑ったり。
――ふと、君の声が聞こえる。ゆっくりと目を開けて、振り返る。
しかし、誰もいない。私が一人だけ。思わず、苦笑がこぼれた。
もう君はいないのに、気がつけば思い出に浸り、探している。
どうしてあの時、握っていた手を離してしまったのか。後になって後悔する。
しっかりと握っていれば、今でも隣には君がいたはずなのに。
もう一度、君に会えたらその手を握り、絶対に離さない。
また君の声が聞こえた。幻聴が聞こえるほど、君を好きだったなんて、愛していたなんて――
秋恋
男心も女心も秋の空のように、ころころと心が変わりやすいもの。
あの子が好き、気がある、何か違う、今度はあの子。
ころころ、ころころと変わる、変わる。
いつか、本当の恋と言うものを知るまでは、変わりやすいのであろう――
大事にしたい
大きくなってきたお腹を優しく撫でる。
中でぽこんっと蹴られた気がした。
その度に、ついつい笑みが溢れてしまう。
また優しく撫でる。本当に愛おしい。
生まれてくる子との時間をいつまでも大事にしたい。
そう願いながら、子守唄を歌った――