向かい合わせ
向かい合わせに座るキミは、いつも窓の外を見ている。
窓がない席では、壁とかを見つめている。
絶対にこっちを見ない。いつも私が一人でべらべら喋るだけ。
どんな話をしても、うんともすんとも言わない。ただ、軽く頷くだけ。
黙っていても、支障はないがつまらない。何か話して欲しい。
手を伸ばして、触れようとすると上手く避けられる。
向かい合わせなのに、遠く離れている感じがした。
歩いている時もそう、先々歩いていく。その後ろを必死についていく。
ある程度距離が空くと、振り返って待っててくれるが、範囲内に入るとまた歩き始める。
嫌われているのか、そうでないのかよくわからない。何を考えているか、たまにわからない。
とうとう怒りが爆発して、言いたいことを山ほど言った。
すると、きょとんとした顔をした後、困った表情をするキミ。
「なんか怒らせちゃってごめん。でも、いつも緊張して、どうしたらいいかわからなかったから、つい、甘えていたかもしれない」
初めて目と目が合った。綺麗な黒い瞳に長いまつ毛。整った顔立ち。
色白の肌はどう手入れをしたら、そんな肌を保てるのか、疑問に思う。
とてもじゃない、キラキラ輝いて眩しいので、目を閉じてしまった。
「え、なんで目を閉じるの?どこか痛い?」
ここぞとばかりに声かけなくていい。――待って、声、そんな良い声してた?
というか、話すのも久しぶりなような気がする、いつぶりだと思うくらい。
「大丈夫?」
恐る恐る目を開くと、まだ眩しかった。
この人を好きになってしまった自分が悪い。ただ単に不器用なだけだったんだ。
普段から不器用なのはわかっていたが、もっと理解するべきだった。
「大丈夫、大丈夫。ごめんね、なんか」
「……ううん、僕もごめんね」
頭を優しく撫でられた。じんわりと涙が出る。
「隣でも緊張するのに、向かい合わせになると余計に。顔を見ると、何話せばいいかって……」
早口で喋るキミ。頑張って、頭働かせて言葉を選びつつ話してくれている。
段々声が小さくなり、目線も逸らす。まるで、叱られた大型犬がしょんぼりと反省しているように見えた。
「わかった、もういいよ、ありがとう」
私の言葉を聞くと安心したような表情をする。
「これから、少しずつ慣れていこう」
向かい合わせ、いつ慣れるかわからないけど、気長に待とう。
自分が選んだ人だ。不器用だけど、優しくて、心配も一応してくれる。
キミなりに気を遣ってくれているのが、よく見ればわかることだ。
焦る必要なんてないし、みんながみんな一緒じゃない。
完璧なんてつまらない、不器用くらいがちょうど良いと思った。
今日も向かい合わせに座るキミ。いつもみたいに窓の外を見るのではなく、今日はこっちを見てくれた。
でも、すぐに窓の外を見てしまう。その様子を見て、クスリと私は笑ってしまったのだった――
やるせない気持ち
遠くから二人の背中を見つめていた。
お互い見つめ、笑い合う姿。羨ましい限り。
もしかしたら、その隣には自分がいたかもしれないと思う。
地面に落ちていた石に視線を移して、唇を噛み締める。
親友から好きな人ができた、だから応援して欲しいと言われた。
仕方がない頼みだから、引き受けたのだが、これが最悪なことに。
まさか、自分と同じ人を好きになっているとは。信じたくはなかった。
しかし、引き受けてしまったから、応援するしかない。
大事な親友だから、失いたくない。いつも笑顔が眩しい親友。
男女問わず愛され、世界が輝いている勝ち組。
やるせない気持ちが、体の中にどろりと落ちていく感じ。
あの時断ればと、たらればを言ったところで、現実は変わらない。
「あ、一緒に帰ろう‼︎」
自分を見つけた親友は無邪気に笑って、こっちに走ってきた。
来なくていい、来ないで欲しい。来るなと叫びたかった。
でも、できなかった。無理矢理、笑みを作り、思うがままに手を引かれて一緒に帰ることなった。
自分の心にヒビが入っていく。少しずつ、少しずつ――
海へ
ジリジリと照りつける太陽。聞こえてくる、波の音おカモメの鳴き声。
磯の匂いが、海に来たと思わせてくれる。
右手に水鉄砲を持ち、後ろにいる友人たちに声をかけた。
「さぁー、海へレッツゴー‼︎」
掛け声と共に、太陽で熱くなった砂浜の上を駆け抜ける。
段々と近づいてくる、海。顔がにやけて仕方がない。
そして、海へとダイブ。水飛沫が上がり、鼻と口に海水が入った。
ゆらりと起き上がり、水鉄砲を太陽へと向ける。
「夏はまだまだこれからだー‼︎」
その言葉と同時に顔に水がかかった。友人たちの一斉射撃。
少しは待って欲しい時思ったが、いや、違う。
時間は待ってはくれない。今を、この瞬間を遊び尽くせ。
裏返し
部屋着に着替えて、家事をしていると首元が何だか息苦しく感じる。
風邪でも引いたのかなぁと思いつつ、家事を続けていると、更に苦しく。
一人悩んでいると旦那が起きてきて、どうしたの?って聞いてきた。
「なんか、息苦しくて」
「……うん、そりゃ苦しいよね」
欠伸をしながら、私の着ている服に指を指す。
私は首を傾げながら、服を見ると服を裏返しに着ていた。
「おやまぁ」
たまに服を裏返しに着たり、ズボンも前と後ろを反対に履いていたりすることがある。
確認しているはずなのに、なぜかこうなることがあるから不思議だ。
慌てているわけでもない。本当に不思議、不思議。
鳥のように
空を自由に飛び回ってみたい。そう思う。
どんなに手を伸ばしても、届かない空。
遥か彼方。虚しく見つめる、自分の手を。
わかっている、自由の翼がないことくらい。
でも、憧れは抱いていいと思う。
鳥のように羽ばたいて、遠くまで飛んでいく。どこまでも――