時雨 天

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8/25/2023, 1:03:56 PM

向かい合わせ




向かい合わせに座るキミは、いつも窓の外を見ている。
窓がない席では、壁とかを見つめている。
絶対にこっちを見ない。いつも私が一人でべらべら喋るだけ。
どんな話をしても、うんともすんとも言わない。ただ、軽く頷くだけ。
黙っていても、支障はないがつまらない。何か話して欲しい。
手を伸ばして、触れようとすると上手く避けられる。
向かい合わせなのに、遠く離れている感じがした。
歩いている時もそう、先々歩いていく。その後ろを必死についていく。
ある程度距離が空くと、振り返って待っててくれるが、範囲内に入るとまた歩き始める。
嫌われているのか、そうでないのかよくわからない。何を考えているか、たまにわからない。
とうとう怒りが爆発して、言いたいことを山ほど言った。
すると、きょとんとした顔をした後、困った表情をするキミ。

「なんか怒らせちゃってごめん。でも、いつも緊張して、どうしたらいいかわからなかったから、つい、甘えていたかもしれない」

初めて目と目が合った。綺麗な黒い瞳に長いまつ毛。整った顔立ち。
色白の肌はどう手入れをしたら、そんな肌を保てるのか、疑問に思う。
とてもじゃない、キラキラ輝いて眩しいので、目を閉じてしまった。

「え、なんで目を閉じるの?どこか痛い?」

ここぞとばかりに声かけなくていい。――待って、声、そんな良い声してた?
というか、話すのも久しぶりなような気がする、いつぶりだと思うくらい。

「大丈夫?」

恐る恐る目を開くと、まだ眩しかった。
この人を好きになってしまった自分が悪い。ただ単に不器用なだけだったんだ。
普段から不器用なのはわかっていたが、もっと理解するべきだった。

「大丈夫、大丈夫。ごめんね、なんか」

「……ううん、僕もごめんね」

頭を優しく撫でられた。じんわりと涙が出る。

「隣でも緊張するのに、向かい合わせになると余計に。顔を見ると、何話せばいいかって……」

早口で喋るキミ。頑張って、頭働かせて言葉を選びつつ話してくれている。
段々声が小さくなり、目線も逸らす。まるで、叱られた大型犬がしょんぼりと反省しているように見えた。

「わかった、もういいよ、ありがとう」

私の言葉を聞くと安心したような表情をする。

「これから、少しずつ慣れていこう」

向かい合わせ、いつ慣れるかわからないけど、気長に待とう。
自分が選んだ人だ。不器用だけど、優しくて、心配も一応してくれる。
キミなりに気を遣ってくれているのが、よく見ればわかることだ。
焦る必要なんてないし、みんながみんな一緒じゃない。
完璧なんてつまらない、不器用くらいがちょうど良いと思った。
今日も向かい合わせに座るキミ。いつもみたいに窓の外を見るのではなく、今日はこっちを見てくれた。
でも、すぐに窓の外を見てしまう。その様子を見て、クスリと私は笑ってしまったのだった――

8/24/2023, 12:31:06 PM

やるせない気持ち




遠くから二人の背中を見つめていた。
お互い見つめ、笑い合う姿。羨ましい限り。
もしかしたら、その隣には自分がいたかもしれないと思う。
地面に落ちていた石に視線を移して、唇を噛み締める。
親友から好きな人ができた、だから応援して欲しいと言われた。
仕方がない頼みだから、引き受けたのだが、これが最悪なことに。
まさか、自分と同じ人を好きになっているとは。信じたくはなかった。
しかし、引き受けてしまったから、応援するしかない。
大事な親友だから、失いたくない。いつも笑顔が眩しい親友。
男女問わず愛され、世界が輝いている勝ち組。
やるせない気持ちが、体の中にどろりと落ちていく感じ。
あの時断ればと、たらればを言ったところで、現実は変わらない。

「あ、一緒に帰ろう‼︎」

自分を見つけた親友は無邪気に笑って、こっちに走ってきた。
来なくていい、来ないで欲しい。来るなと叫びたかった。
でも、できなかった。無理矢理、笑みを作り、思うがままに手を引かれて一緒に帰ることなった。
自分の心にヒビが入っていく。少しずつ、少しずつ――

8/23/2023, 1:11:53 PM

海へ





ジリジリと照りつける太陽。聞こえてくる、波の音おカモメの鳴き声。
磯の匂いが、海に来たと思わせてくれる。
右手に水鉄砲を持ち、後ろにいる友人たちに声をかけた。

「さぁー、海へレッツゴー‼︎」

掛け声と共に、太陽で熱くなった砂浜の上を駆け抜ける。
段々と近づいてくる、海。顔がにやけて仕方がない。
そして、海へとダイブ。水飛沫が上がり、鼻と口に海水が入った。
ゆらりと起き上がり、水鉄砲を太陽へと向ける。

「夏はまだまだこれからだー‼︎」

その言葉と同時に顔に水がかかった。友人たちの一斉射撃。
少しは待って欲しい時思ったが、いや、違う。
時間は待ってはくれない。今を、この瞬間を遊び尽くせ。

8/22/2023, 11:51:02 AM

裏返し




部屋着に着替えて、家事をしていると首元が何だか息苦しく感じる。
風邪でも引いたのかなぁと思いつつ、家事を続けていると、更に苦しく。
一人悩んでいると旦那が起きてきて、どうしたの?って聞いてきた。

「なんか、息苦しくて」

「……うん、そりゃ苦しいよね」

欠伸をしながら、私の着ている服に指を指す。
私は首を傾げながら、服を見ると服を裏返しに着ていた。

「おやまぁ」

たまに服を裏返しに着たり、ズボンも前と後ろを反対に履いていたりすることがある。
確認しているはずなのに、なぜかこうなることがあるから不思議だ。
慌てているわけでもない。本当に不思議、不思議。

8/21/2023, 1:51:28 PM

鳥のように




空を自由に飛び回ってみたい。そう思う。
どんなに手を伸ばしても、届かない空。
遥か彼方。虚しく見つめる、自分の手を。
わかっている、自由の翼がないことくらい。
でも、憧れは抱いていいと思う。
鳥のように羽ばたいて、遠くまで飛んでいく。どこまでも――

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