今日は喜苦楽家の設立記念日。
キクラゲをこよなく愛する我が家そして我が社は毎年世界一のパーティを開くのだが……。とても憂鬱でならない!
一度思い描いてほしい。
職人の魂が意匠を込めた重厚な扉を開けると、会場の中には白く美しい様々な器にぷるぷるなキクラゲ料理が燦然と輝いているのだ。
歩みを進めれば右手にキクラゲサラダ。左手にキクラゲの味噌汁。ご安心ください、キクラゲパフェもご用意しております。
ボクは幼い頃までキクラゲが好きだったのに。
キクラゲの美味しさをマイク越しに熱弁する祖父、聴きながらキクラゲのフルーツポンチを勧めてくる兄。片手に持ってるの何それ……キクラゲどら焼き?
すると突然大きくなった祖父の声が会場に響き渡った。
「さぁ皆様、キクラゲの栄光を捧げ踊りましょう!」
今はもう、食べないのではなく。食べられなくなった。
キクラゲのようなふりふりの衣装を着た参加者が曲と共に踊り始める。悪い夢でも見ているようだ。
ボクはキクラゲに執着している人をこう呼ぶ。
『キクラゲってる人』
『踊りませんか?』
魂がふるえた。
その声、その言葉、その身体。
一年会えなかった彼女は、まるで天使のふわりと現れた。
「あたしは世界一かわいくて大好きな君に会いに来たの!」
私の心はどうしても、彼女の隣にいるだけで、ただそれだけで幸せで、それなのに泣きそうでいっぱいになるのだ。その瞳はいつまでも私を優しく見てくれるから。
ぎゅうっと抱きしめる。懐かしい、春のような香りが私の脳と鼻腔をくすぐる。
「ね、約束したこと、覚えてる?」
私が言葉を発するより先に問われた。
忘れるはずもない。7歳の誕生日だった。
長いまつ毛を時々恥ずかしそうに伏せながら訊ねられた。
『ねぇ、オトナになったら………あたしと結婚してくれる?』
今日私たちがオトナになった日は、きっと運命が動き出した日。
あのとき私が頷くと、彼女は幸せそうに笑ってくれた。
「……うん、覚えてるよ。いつまでもあなたが大好きだから。」
「ふふっ。あたしもいつまでもいつまでも大好きだわ」
私の最愛の女の子
『巡り会えたら』