大事にしたい
「大事にしたいの。今この瞬間を。
生きてる。脆くて弱いこの心臓が動いてくれている最後の時まで。愛紅と愛華とあなたとみんなで笑っていたい。」
妻は弱々しい笑顔でそう言った。
君への想いは今でも出会った頃から変わっていないこの愛しい気持ちが君の願いを叶えたいと言っていた。
だから、
「そうだな。そうしよう。医師にはそう言っておく。」
医師にはあまり動かない方がいいと言われている。
けど、妻は最後の時間を家族とたくさん遊んで、子供達に料理を作ってたくさん笑いたいと言う。
だから俺は妻の願いを叶えるんだ。
「愛してる。ずっと。」
完
空が泣く
「ねぇねぇ!パパ!
明日のうんどうかいはママが晴れにしてくれるよね?
おそらにいるママがきっと雨をふらないようにしてくれるよね?」
明日の幼稚園の運動会のためのお弁当の下ごしらえをしにキッチンに立っている俺に息子は聞いてきた。
1年前、息子がまだ3歳の時
妻は病気で息を引き取った。
妻の香織が亡くなった時は人生で1番悲しかった。
けど、妻は最期まで笑顔で「光信(こうしん)をよろしく。ずっと見守ってるから。2人を愛してる。」と言っていた。
だから光信を立派に妻の分も愛情をたくさん込めて育てていきたいと思っている。
妻が亡くなった時息子には
「ママはお空にいるんだよ。
パパと光信を見守っているんだ。」
とそう言った。
だからママが晴れにしてくれると言う言葉が出たようだ。
「うん。そうだな。ママがきっと晴れにしてくれる。
でもな、光信。ちゃんと部屋を片付けないとママ怒って泣いて、明日晴れにしてくれないかもだぞ?」
「え〜、いやだ!こうしんおかたづけしてくる!」
そう言って部屋に戻っていった。
なあ、香織。光信は立派に育ってるよ。
だから見守っててな。
明日の運動会も晴れになるよな。
光信の頑張りを応援してて?
俺、もっと頑張るから。
心の中でそう言った時
ずっと見守ってるからね。
光信をよろしくね。パパ。
そんな声が聞こえた気がして、弁当をもっと豪華にして光信を喜ばれせてやろうと気合いをいれた。
えんど
君からのLINE
私はシングルマザーで娘を育てて来た。
そんな娘は社会人になり忙しいそうであまり連絡を取れてないし、しばらく会っていない。
寂しいなぁとか、向こうで上手くやれているのかなぁ、とか思っているけど、娘が向こうで精一杯頑張ってるのならば応援したい。
そんな思いがあって無理に帰ってこいとは言えなかった。
ふといつもに増して心配になりLINEを打とうとした時だった。
ピコン
となって見ると娘からだった。
"久しぶり。
ずっと連絡できなくてごめんなさい。
元気にしてますか?
今度の金曜日、帰ってくるから。
その時はまたお母さんのご飯が食べたいです。"
帰ってくるんだ・・・・・・・
急なことにびっくりしたけどそれの何倍も嬉しさが込み上げてくる。
元気にしてるのか体は壊していないのか、
ずっと心配してたから、金曜日に顔を見せにくるようで安心した。
早速、ワクワクする気持ちを抑えきれずにその日はずっとハッピーな気持ちで1日を過ごした。
夜明け前
小学2
年生、夜明け前、ナオヤは私に言った。
「絶対に迎えにくるから。待ってて。
必ずまた君に会いにくる。」
「本当に?本当に迎えに来てくれる?」
「あぁ、約束だ。待っててくれる?」
待ってるよ。待ってる。
小学2年生だった私たちは涙ながらにお別れをした。
私達は幼なじみだった。
お互い親は仕事ばかりで私達のことなんてどうでもいいんだ。
子供ながらにそう思ってたから親に泣いたりわがままを言ったりはできなかった。
でも、幼なじみのナオヤだけは私と同じ境遇にいてナオヤといる時だけは楽しかった。
それなのに・・・・・
ナオヤの母親が引っ越すと言ったらしく、ナオヤも当然ついていく。
だから私たちは離れ離れになった。
だけど、君は迎えに来てくれないね。
あれからもう7年も経っちゃったよ。ナオヤ。
お互いもう高校生だよ。
ナオヤは今どこで何をしてる?
小さい頃の約束なんてナオヤの中でなかったみたいになってる?
でもね、ナオヤ。
私はあの頃からナオヤのことを忘れたことは一度もなかったよ。
だからさ。もう一度会いたいよ。
会いたいよっ!ナオヤ。
「会いたいよ・・・・・・・」
「会いに来た。迎えにきたよ。遅くなってごめん。」
えっ?ナオヤ?
少し大人びた、でも小さい頃から変わらないナオヤの声が後ろから聞こえた。
ナオヤっ?
後ろを振り向くと微笑んだナオヤが立っていた。
「遅くなってごめんね。」
「っ!ばかっ!おそいよ!待ってた。ずっとずっと。」
「うん。」
涙を流しながら抱きしめ合った。
ありがとう。また私の前に来てくれて。
end
喪失感
何かが足りない。
それが大きいからダメになる。