アクリル

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9/3/2024, 6:30:34 PM

些細なことでも


所作ひとつひとつまで厳しく躾けられた私は
重大なことを見落としていた。
目に見えないことは決して信じてはいけないと
常々、幾度も教えられた私は
あなたの発した殆どを、残酷に流した。

様子も、仕草も、言葉にならないものは
無いのと同じだと信じて疑わなかった
とんだ勘違いだった

あなたの言葉が耳に入った
あなたは一切の他意なく
目に見えない世界のことを口にした
私は愚かにも憤った
こんなに地を踏んで生きる私に、非現実的なことを言い放ったと
どこまでも被害者を貫いた

ある日あなたは強くなった
誰よりも強くなったはずなのに
次の日にはいなくなった

手紙になったあなたに教わったのは
私の人格がいかに乏しかったかということ

小さな、小さなメッセージを
払いのけたこと
それがあなたを追い詰めたこと
取り返しのつかないことをしたこと
育ちと向き合わなかったこと

ごめんなさいじゃ済まされない過ちを
そちらの都合でいいから
一度でいいから詰りに来て。

8/28/2024, 5:13:45 PM

突然の君の訪問。


烏滸がましくも予感がした。
君はきっとこの部屋を
最後の砦だと思っている。

インターホンさえ
今となってはいらない。
躊躇なくサムターンを回す。

ずる、と崩れる見慣れた人影を
壁を背に受け止める。

静寂に包まれた玄関で
少し痩せた君を包む
生きていてほしい、と思った。
反射的に口が開いた。

「寝よう、いっしょに」
「うん」

小さな返事と同時に、伏せられていた君の目が開く
その痛みと、幸福が混在した眼差しが
安心に変わるまで
ここで守らせて。

8/27/2024, 2:07:24 PM

雨に佇む


傘を捨てた。
通りがかった車から放たれた泥水のシャワーを浴びて、世界に失望したから。

濡れた靴下が不愉快で、舌打ちをしかけて、やめた。
数時間後の自分に、態度を諭されるのは癪だから。
滝行だと思って、徳でも積むかと思い立った。

無意識に特大のため息をついて、私はダラダラと歩いた。
重くなった服と、水滴で見えない眼鏡に苛立つ。
急ぐ気力も消えて、ついに立ち止まった。
ふと目の前に、錆びた橋が目に留まった。
そうだ、いっそ濁流でも眺めていれば、何かが変わるかもしれない。
私は水溜まりを踏みつけ、橋の真ん中で茶色くなった川を見下ろした。

「ねえ、ダメだよ」

突如聞こえた焦りに満ちた声。

誰?
否、あまりにも、知っている。

確かに数年前に消えた、あの子だった。

8/26/2024, 3:37:56 PM

私の日記帳


文字になった記憶と
なぜか薄れていく声に
紙上で再会する

一緒に夜から逃げよう
そして一緒に朝を見に行こう

またあの時みたいに
散歩をして、時間と四季を半分こしよう

世界は変わっていくから。
私一人では、置いていかれてしまうだろうから。

8/25/2024, 3:01:59 PM

向かい合わせ


「意外と甘えたがりなんだね」

柔らかい声が心身を解いていく。

照れ隠しだとしても
音もなく後ろから羽交締めにするのは
流石にやめてほしいと
大事なあなたに言われてしまったから
勇気を出して、前から抱きついてみるなど...したのだ

「だめでしたか」

やはり恥ずかしさは消えなくて、あえてぶっきらぼうを演じた。

「いいんだよ」

あなたの返事はいつもシンプルだ。
だからこそ、逃げられない。
あなたの前では、心を隠せない。
こんな優しい人の前でなんて、隠す気にもならない。

晒させてください、これからもずっと。

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