雨に佇む
傘を捨てた。
通りがかった車から放たれた泥水のシャワーを浴びて、世界に失望したから。
濡れた靴下が不愉快で、舌打ちをしかけて、やめた。
数時間後の自分に、態度を諭されるのは癪だから。
滝行だと思って、徳でも積むかと思い立った。
無意識に特大のため息をついて、私はダラダラと歩いた。
重くなった服と、水滴で見えない眼鏡に苛立つ。
急ぐ気力も消えて、ついに立ち止まった。
ふと目の前に、錆びた橋が目に留まった。
そうだ、いっそ濁流でも眺めていれば、何かが変わるかもしれない。
私は水溜まりを踏みつけ、橋の真ん中で茶色くなった川を見下ろした。
「ねえ、ダメだよ」
突如聞こえた焦りに満ちた声。
誰?
否、あまりにも、知っている。
確かに数年前に消えた、あの子だった。
8/27/2024, 2:07:24 PM