向かい合わせ
「意外と甘えたがりなんだね」
柔らかい声が心身を解いていく。
照れ隠しだとしても
音もなく後ろから羽交締めにするのは
流石にやめてほしいと
大事なあなたに言われてしまったから
勇気を出して、前から抱きついてみるなど...したのだ
「だめでしたか」
やはり恥ずかしさは消えなくて、あえてぶっきらぼうを演じた。
「いいんだよ」
あなたの返事はいつもシンプルだ。
だからこそ、逃げられない。
あなたの前では、心を隠せない。
こんな優しい人の前でなんて、隠す気にもならない。
晒させてください、これからもずっと。
やるせない気持ち
ねぇ、生きさせてくれないかな
心を持つことを、諦めさせないでくれないかな
頼み事が多くてごめんね
半生で見つけた気づきも望みも
口に出したら消されてしまうことを学んだよ
手先が動かなくなるほど冷たい日に
存在そのものが許されないことを学んだよ
わかり合う世界を空想しながら眠りについて
怖い、と泣く夢を見て目覚めた時、息が切れていた
私は情けないから
大半が失望に埋まった脳を抱えて
まだ人生にしがみつくよ
楽園
このガラスの向こうに
世界が繋がっているなんて
信じない
眩しい電灯も
眠りに誘うリネンの手触りも
全て私の認識だというのに。
えぐられてしまったのだ
守り続けていた何かが
ひび割れて、破片を持ち去られた
そのまま、変われないでいるのかと
呆れたような
見捨てられやしないというような
突き放しはしないだけの声が響く
置かれた場所で咲けやしない
それならば
私の桃源郷は
ここから再世される
刹那
時計が鳴った時
私は去り際の一言を思い出した
雨が降っていた夜、二度と会えない人が
お別れにくれた言葉
「帰らないことを救いだと思って」
一瞬の曇った顔と
覚悟のある空気が
私を数センチ、押し離した気がした
これでよかったと
思える日まで
私はまた、明日を知っていく
生きる意味
四季を感じて
暖かい寝床で寝る
美味しいお茶を淹れて
私にしかできない価値を与える
本質的な「仕事」をする
ひと休みをしよう
今日は散歩にでも出てみようか
5月の風がもう、すぐそこまで来ている
履きなれた靴が
履いている感覚もないくらいに馴染んでいる
歩けるありがたさ
こんなに綺麗な光景を見れるありがたさ
その恵まれた状況を味わい
遠慮なく受け取れる幸福を
忘れないように
心の赴くままに過ごして
気づけば夕方
あたたかい1日だった
そんな実感を得られる生活
毎日を大切に積み重ねて
より豊かな人間になっていく
より素敵になっていく
それだけで、十分な意味を持っている。