君の奏でる音楽
こじんまりとした発表会で聴いていたピアノの音
丁寧で、柔らかい。
ひと聴き惚れ、とでも言うのだろうか
どうにも、楽器の魅力に取り憑かれてしまったのだ。
憧れて通った音楽室、うまく動かない指も
それなりに操れるようになって
君の音に近づけるのが嬉しかった
「すごい、上手になったね」
何よりも嬉しい褒め言葉が沁みた
「今度、連弾、したい」
緊張で声が震えてしまう
「うん。次の発表会は連弾ね」
白黒の楽譜が、なんだか色付いて見えた。
だから、一人でいたい。
失うものはとうに失い切った
出会うべきものにはご挨拶までできた
お礼を言うべき人には頭を下げた
あなたは強いから一人でやっていける
あなたなら大丈夫
そんな信頼を得たから
もう心配かけないよ
聞きたくなかったことも
言われたくなかったことも
信じたくなかったことも
もう誰にもぶつけられないから
やっと私らしい生き方が始まるから
横目で、何事もなく通り過ぎていってくれたら
それでいいから。
もうさようならできるよ。
へばりつく黒い脚本の繰り返しに。
これからよろしくね。
真っ白な脚本と、生き直す勇敢な私へ。
嵐が来ようとも
生き延びてるよ
立派に、いや、図々しく
人間らしく
息をしてるよ
まだ言い切れていない
まだ書ききれていない
聞かせたいことが沢山あるから
戻るその日まで待っていて。
私の当たり前
わかりきった顔で
斜に構えて
問い詰められることに恐れながら
無難なことを口に出す
決して世間知らずではないと
思い知らせてやりたくて
傾聴の姿勢を取らせようと躍起になる
何も疑わなくて済んだような人を
つつきながら生きるしかなかったから。
「そうでもしないとやっていられない」
失望したような顔で、半笑いになる私を
そんな表情と声音が癖になった私を
いったい、誰が好くというのだろう。
きっと、天真爛漫に笑う人を
大多数は望んでいるのだ
裏のないまっすぐな感情を
伝え合える素直な関係を
みんな欲しがっているのだ
側から見たって、澄んだ愛情は美しく見えるのだから。
故に、大抵こんな顔をしている私は
世間のテンプレートには沿えない。
けれど、もし奇特な人がいて
湿った半生の私を気に入ってくれるなら
それが後世の、もう一つの定番になりますように。
子供の頃は
朧げに残っている
3歳くらいの時
覚えたての手の形で
3を作って
初めての自己紹介をしたこと。
自己開示を
なんの疑問もなくできていた
そして受け止めてもらえた
暖かい世界だったと思う
不思議だよ
歳を重ねるほどに
自分を隠すようになっていく。