待ってて
ふと目が覚めた。
どこか怯えをはらんだ手つきで
君が私のシャツを掴んでいた。
まるで子供みたいに
行かないで、って言いたげに
小さな顔を首元まで埋めて離れない。
さらさらとした髪をそっと撫でて、少し震えている体を受け止める。
「どうしたの」
しばらくして、掠れるような、小さな声が返ってきた。
「こわい夢、みた」
午前3時、朝はまだ遠い。
私はその細い体を毛布でふわりと包み、あやすように抱きしめた。
「ここにいるよ、次の夢で会いに行くよ」
花束
泣くことに慣れたあなたへ
失うことに慣れたあなたへ
さようならに慣れたあなたへ
贈り物に乾いた気持ちを。
麻紐でまとめた
まとまりのないお祝いを。
どこにも書けないこと
何も成し遂げられないまま
枯れて散っていく
それでいいと思っていた
それを許せなくなった
もっとまっすぐに生きたかった
やりたいことだってあった
欲しいものだってあった
隠してきた欲と
大人ぶった仕草を
全て捨てて
思いのままに
生きていたい
時計の針
耳障りだとも思わなくなった。
西日に照らされて
焼死体みたいになった私
生き残った時間を
音で実感する
規則正しく刻みながら
怠惰な私に語りかける。
「そのままでいいの?」
溢れる気持ち
それぞれが昼食を求めて散っていく中、私は虚ろな目をしながら食べていたおにぎりを、危うく落としそうになった。
だって、憧れの人が急に隣で
「おつかれさまです、美味しそうですね、それ」
なんて言うから。
私は動揺を隠して、
「この混ぜご飯のもと、ハマってるんです」
なんて、ときめきも色気もないことを口走ってしまった。
「梅のやつなんですね、私も梅大好きで。いいこと知りました。今日探してみますね」
いつもの優しい声で、心底嬉しそうに笑う彼女。
その愛おしい姿に何度惚れたかわからないが、今回もしっかりと惚れた。
大好きな後輩。
歳下とは思えないほどの人柄と人徳。
思わず手を合わせたくなるほどのものを、彼女は沢山持っている。
私は今日も、梅のコーナーをうろつく。
次はどれを彼女に勧めようかなんて、起こってもいない瞬間に思いを馳せる。
それもいいだろう。
来月、私はこの職場を辞めるのだから。