自宅でゆっくりとお茶を飲み、暖炉前のロッキングチェアでくつろいで、そろそろ寝ようか?と思っていたところで玄関戸が激しく叩かれた。
「こんな遅い時間に誰かしら?」
と独り言を呟きつつ玄関に移動して様子を伺う。
ドンドンとノックが続いている。
『居るのは分かってるぞ!開けろ!!』
と声もするせいで余計怖くなり戸は開けられない。
『罠から助けたのになんで恩返しに来ないんだ!!?』
と更に声が続く。
外に居るのが誰かはこれで分かったが
『恩返しするまで帰らないぞ!!早く開けろ!!』
との声で、あぁもう恩返ししないわと決心がついた。
そのまま玄関を離れ布団に入る。
いつの間にか寝ていたのだろう。玄関を叩く音もあの人の声も聞こえなくなっていた。
(誰かしら?)
鶴の恩返しのオマージュ、恩返ししないバージョン。
住まう者が居なくなった島。
過去には大勢が住んで色々な舟が行き交い色々な物資が運ばれ、生活が豊かに息づいていた。
そんな島にも闇は入り込んでくる。
力を持った者が統治を初め、いつしか島民はその者の下につくか島を去るかを選びどんどん島が荒れて行った。
その島に残った者たちの力は更に増していき、鬼が住まう島と忌み嫌われ、やがてその力を滅ぼそうと鬼退治だと乗り込んで来た1人の侍とその配下に島民たちは惨殺された。
そしてその島は無人島となり自然が力を取り戻していった。
暖かな気候と共にこの島の自然も芽吹きのときを迎えようとしている。
(芽吹きのとき)
桃太郎のオマージュ、鬼退治後の島の自然回復のようす。
あの日点けたマッチの温もりは忘れられない。
マッチの火と共に倒れた私を助けてくれたあの人の温もりも忘れない。
あの人と食べた美味しい温かい料理の味も忘れない。
忘れた事も無い。
そう言っておばあちゃんは息を引き取った。
温もり感じる葬儀を終えて家に帰る。
おばあちゃんがいつもおかえりと迎えてくれた温もりはもう無い。
おばあちゃんが大切にしていたマッチ箱を戸棚から出して1本だけ火を点ける。
おばあちゃんの遺言通りの行動だ。
マッチに揺れる火の中におばあちゃんが見えた気がした。
(あの日の温もり)
マッチ売りの少女のオマージュ、物悲しい雰囲気。
「鏡よ鏡、世界で1番美しいのは誰?」
『それは猫です』
「…ね?質問を変えるわ。世界で1番可愛いのは誰?」
『それは猫です』
「………」
『1番美しくて可愛くてcuteで尊く気まぐれな猫です』
「………」
『1番醜いのは、自分が1番だと思っているあなたです』
「………もういいわ、この鏡は処分してちょうだい」
『あっ…』
(cute!)
白雪姫のオマージュ、ただの猫好き鏡だったようです。猫はキュートなのです。
各世界の記録をノートにメモしていく。
世界が正常かどうかを過去の記録と照らし合わせながら確認する。
おっと、ここは異常が発生しているじゃないか。
川を流れる光る竹を拾い上げ桃を流す。
こっちも異常だ。
オオカミをレンガの家から出して三男を入れる。
こっちはちゃんと海亀が砂浜にいるから問題ない。
日々の記録が今後の世界を正常化させる。
明日もまたこのノートに記録をメモしていこう。
(記録)
童話世界の記録はこうして守られているのだろう。