ようやく安心出来そうな小さな砂浜を見つけた。
海からの波は穏やかで、風が押し上げた砂浜は大きく盛り上がり穴を掘るにはうってつけだ。
夜になるのを待って陸に上がり透明な涙を流しながら穴を掘る。
もうすぐ掘り終えようかというタイミングで陸から1人の青年が歩いてきた。
「おお、ウミガメよそんなに涙を流してどうしたんだ」
そう声をかけられるがこっちは今それどころじゃない。
「誰かにいじめられたか、それとも海へ戻れなくなったか」
勝手に好きに喋っているが気にしてはならない。もう時間がない。
「どれ、今助けてやるからな」
そう言って甲羅を掴まれた。もう我慢ならずその青年に声をあげる
「産卵の邪魔せんどいて!!涙は生理現象じゃ、目の乾燥を防ぐ用じゃ!!もうほっといてんか」
思わず関西チックな喋り方になってしまったがその青年は驚き手を離して去っていった。
せっかく掘った穴が崩れたが急いで掘り直そう。
(透明な涙)
浦島太郎のオマージュ、ウミガメの産卵の邪魔したらあかんよ太郎。
目の前の河を飛び超えればあなたのもとへ行けるのに、この河は意志を持っているかのように私が近付くと荒波を上げ始める。
年1回だけ河は落ち着いて向こう側が見える日があるが、川幅が広いせいで声は届かない。
そうして幾年も幾年も繰り返して、あなたのもとへはまだ行けていない。
あと幾年すれば向こうへ行けるのだろう?
あなたのもとへは今すぐにでも行きたい。
あなたはどう思っているのだろう。
(あなたのもとへ)
織姫と彦星のオマージュ、天の川に護岸工事と建橋工事求む。
まだ奴らは気付いていないようだ。
足音を殺し息を潜め姿勢を低く近付いて行く。
目の前にある藁の家をひと束ひと束そっと分解していく。1匹目の喉に一気に食らいつき静かに藁で隠す。
2つ目の木の板の家へ素早く近付き、節穴から中に麻酔ガスをそっと流し込み、しばらく待ってから普通にドアを開けて意識を失っている2匹目にとどめを刺す。
残すはレンガの家だ。
まだレンガの繋ぎ目が乾いていないことを確認し、そっと引き抜いて行く。
要石になっているであろうレンガを引き抜いた時レンガの家は一気に潰れた。
中に居た3匹目は、辛うじて生き残ったようでレンガの隙間から這いずり出てきた。
そっと後ろから食らいつく。
一夜にして3匹の兄弟が居なくなったと翌日騒ぎになっているのを後目にそっと去る影が1つあった。
(そっと)
3匹の子豚のオマージュ、オオカミの襲撃成功バージョン。
「今夜、私は月へ帰らなくてはなりません」
そう爺婆と、婚約した帝に告げました。
そして小さい巾着袋を取り出しました。
「これは不老不死の秘薬、月の民が服用している物で、酸素の無い月での生活に欠かせない物ですが、私が月へ帰った後も想って下さるのなら渡しましょう」
爺婆は、躊躇いましたが帝はその巾着を受け取ると懐にしまいました。
「この秘薬を飲みいずれあなたの元へ参りましょう」
あれから数千年、月のかぐや姫は帝はまだ来ないのかと、裏切られたのかと、引きこもっておりました。
地上の帝は、しっかり約束へ向け有人ロケット開発の真っ最中。あと何年掛かるか目処は立っておらず、それでもまだ見ぬ景色へ挑もうと必死でしたとさ。
(まだ見ぬ景色)
かぐや姫のオマージュ、帝ロケット開発失敗して爆破しても無傷で帰還する事で有名人になってます。
雀のお宿から帰ってきたお爺さんお婆さんはそれぞれに小さいつずらと大きなつずら抱えています。
お爺さんが小さいつずらを開けると金銀財宝が溢れ出し、数えてみると残りの人生暮らすには充分すぎる額になりました。
お婆さんが大きいつずらを開けると見たこともないような巨体に1つ目の怪物が出てきました。
物の怪ファン、サイクロプス推しのお婆さんは大興奮、ハグしてみたり腕にぶら下がってみたり怪物が引く程堪能していきます。
そうして興奮しすぎて失神したお婆さんが翌朝に目を覚ますと1枚の置き手紙
『推しなのは嬉しいですが、押しが怖いのでお宿に帰らさせて頂きます。ロプス』
お婆さんは、あの夢のつづきをぉぉぉと叫び、推しとの距離感を間違えた事を後悔するのでした。
(あの夢のつづきを)
舌切り雀のオマージュ、雀が物の怪の類とバレたお婆さん推し活し過ぎてお宿に逃げられてます。